微睡みに落ちる４【降谷零/安室透】

Case.121 -The Darkest Nightmare- ページ2

そういえば、Aはどうやってここまで来たんだろうか。

銀行強盗の時は、バイクだと言っていたな…。
なら、今回もきっとそうだろう。服装もスキニーやブーツでバイク仕様だ。
ジャケットだけオーバーサイズなのは不思議だが…。

そこで、はたと気づいた。
肘のあたりまでたくし上げられてはいるが、見覚えがある。

これは。


「僕のジャケット…か？」


思わず口をついた言葉に、Aはぴたりと足を止めた。


暗がりにいたから気づかなかったんだろう。それに、途中からは気を配る暇もなかったから。
ずっと着ていた、のか。
そう思うと、今更ながらにクるものがある。

緩みかかった口元を手の甲で隠していると、Aに掴まれていた手首がするりと解放された。
同時に、Aはそのジャケットを脱いで、僕の胸に押し付ける。

「…返す」
「え、」

なんで急に。僕としては、もう少し見ていたかったのに。
表情から察したのか、Aは呆れたようにため息を吐いた。

「これは元々、アンタに返すために持ってきたのよ。ついでに一発殴ってやるつもりでね」
「えっ」

何故。そんなことをされる謂れはないはずだが。
すると、Aは半眼になってじとりとこちらを睨みつけてきた。

「…《ジャケットは返さなくていい》…だっけ？」

「……あ」

たらりと冷や汗が伝う。
そうだ。そんなことをメールした。万が一を考えて、彼女の手元に痕跡を残したくて。

「…あんな悪い冗談を言ってくるバカには、それくらいがちょうどいいと思わない？」

ジャケットを胸に押し付ける力が強まった気がした。
どうしよう、受け取るのが怖い。

「…もしかして、君が『会いたかった』って言った理由って…この為か？」

ジャケットを返して殴るために会いに来たのか。
だとしたら、期待して舞い上がっていたさっきまでの僕はなんだったんだ。

ただのバカじゃないか嘘だろ泣くぞ。

うなだれて沈黙していると、Aが今度は盛大にため息を吐いた。

「…バカね」
「う…」

その言葉は今の僕に結構刺さる。本当に泣くぞ。
言葉のナイフに耐えていると、受け取らないままだったジャケットが、ぱさりと肩に掛けられた。


「――零の事が好きだから、こんなところまで会いに来たんじゃない」


「え―――？」


耳を疑う言葉が聞こえた瞬間、掛けられたジャケットがぐっと引っ張られて。



唇に触れた柔らかい感触に、不覚にも反応が遅れた。

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