溺れるナイフ ページ26
"じゃあ次、重岡くんとのシーン撮るよ。"
と監督がスタンバイしていた重岡を呼んだ。
"おー、頑張れよー。"
そう言って菅田は、重岡の脇を抜け、休憩室に向かった。
俺は、菅田越しのAと目が合った。
...なんなんあの顔。
今まで見たことないような、熱のある眼差しで菅田の後ろ姿を見つめていたA。
俺の中でふつふつと何かが湧き上がった。
"お疲れA。あかんわセリフ飛びそーや。"
内心穏やかでは無かったが、へらへらと笑ってAに話しかけた俺。
"私、しげとの芝居、普通に笑ってしまいそーや。"
先ほどの目とは違い、いつものように穏やかな目で俺を見たA。
...俺にはあの目はしてくれないんか。
監督の声で、撮影が始まった。
"...やから、ごめんー。"
大友を振る夏芽。
"好きじゃ。俺じゃだめなんか、コウか...？"
お芝居のはずやのに、なんだか俺が振られた気になって、俺やなくて...菅田を選ぶんか？と思ったらAを感情のままに押し倒していた。
"...！？"
そんなシーンは無かったのに、重岡に押し倒され焦るA。
Aは驚いた顔をした後、演技を続けていた。やけどよく見ると目に涙が溜まっていた。
あかん！やってもうた！！泣かせたいわけちゃうんや...。
俺は今が演技中ってことも忘れて無理矢理押し倒してしまったことを後悔した。
俺の小さい脳みそ頑張れ！こういうときは、どうしたらええんや！
パッと視線を移すとカラオケ用のマイクが見えた。
よし。これや！と俺はマイクを手に取り歌った。
Aを笑わせるようにわざとおどけて見せ、一緒に手を取りくるくる回る。
するとAもいつもの笑顔で笑った。
そこから2人で手を繋ぎながらカラオケを熱唱した。
"はいカットー！"
監督の声で撮影が終わり、俺はAに誤った。
"...ごめん、熱入って押し倒してもーた。どっか打たんかった？"
"大丈夫やけど...めっちゃびっくりした！"
"ほんまごめん。撮影用の内なるしげちゃんが出てきちゃったわ。"
そう言って俺は笑った。
"もー、やるときは事前に言うてや！"
とAも俺のほっぺをつねりながら笑った。
そんな様子を見ていた監督が、
"うーん予定にはなかったんだけど。"
と言ってほかのスタッフを集めて話をしていた。
そして監督は、"2人のシーン増やしていい？"と重岡を呼んだ。
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作者名：まる | 作成日時：2019年1月19日 21時
