溺れるナイフ ページ24
主演映画として決まった溺れるナイフで
私は望月夏芽役でスクリーンデビューをした。
撮影は私の地元の小さな街で行われた。
私は子供の頃から自然が多く残るこの街が大好きやった。
そんな長閑な住宅街に監督の激しい檄が飛ぶ
"ちがうっ！そうじゃなくて。"
撮影を何回テイクも重ねるが、なかなか監督はOKを出さない。
ついにはカメラも止め、私の元へ歩いてきて
Aちゃんもっと中学生っぽく演じれない？と指示されてしまった。
時間は限られているのに..私がうまくできないせいで。次の撮影のためカメラの後ろでスタンバイしていた菅田くんと目があった。
一旦休憩にしましょう、そう言って監督が席を立った。
"すみません、次はできるようにします..。"
スタッフさんもすみません。と謝る私に
菅田くんが、俺らもう20歳超えとるのになー？とこっそり耳打ちした。
"ふふ、せやね。"
私は思わずふふっと笑ってしまった。
こんな過酷な現場でも、菅田くんは主演らしく堂々と演技をする。
"菅田くんは、ほんまにコウちゃんみたいやなー。"
と思わず言ってしまった。
菅田くんは、あははと笑うとそれ褒めとる？と私に聞き返した。
...キラキラ眩しい菅田くんは私より歳下やのに全然大人に見えた。
しばらくすると、監督が戻ってきて
"じゃあ気持ち切り替えて撮り直すよ。いける？"
と私に聞いた。
"はい、お願いします。"
私は私で戦わなければならないのだ、このプレッシャーに。
"はい、カット！今日はこれで終わりにするね。明日は朝から学校で撮るから。"
監督はやっと自分の撮りたかった画が撮れたのか満足そうに笑った。
"はい、ありがとうございました。"
私は心身ともに疲れ切っていた。
ホテルへの帰り道を菅田くんと2人で歩きながら
私と同じかそれ以上のスケジュールを余裕の表情でこなす彼を心底尊敬した。
"明日からの撮影、今みたいに全然撮られへんかったらまたみんなに迷惑かけてまうわ。"
相手は歳下やのについつい愚痴を言ってしまう私。
"演じようと思うから肩に力が入るんやない？普段から俺のことを、コウちゃんと思えばええんやない？"
そう言われた私は、目の前の菅田くんが金髪のせいなのか、神々しく見えた。
"スターは身も心もキラキラなんか...。"
と感心する私に、
"ついでに、俺のことも好きになったらえーやん。"
と少し先を歩く菅田くんが振り返った。
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作者名：まる | 作成日時：2019年1月19日 21時
