お腹すいた (ページ9)

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「じゃあ、これは？」
次から次へお菓子を取り出しては見せる。

見た事があるものだとパァッと声色を明るくさせ、
見た事がなさそうなものを見るとおいしそうと溢している。

わかりやすい反応にこちらも見せがいがある。
どれを見せても苦手なものはなさそうな
リアクションで内心ホッとした。

一通り見せ終わった後、先ほど交換した缶コーヒーを
上着のポケットへしまった。
少々こんもりとして不格好になったポケットに
ひしひしと視線を感じる。

きっとおかしな行動に見えているのだろう。

「荷物になっちゃうけど」
「よかったら、どうぞ」

迷惑でなければ、と念を押し
コンビニ袋を差し出した。

『僕に？』
『良いんですか？』
そう言いながら控えめに手が伸びてくる。
改めて中を覗き込みながら明るい声が聞こえた。

『わぁ、ほんとに。こんなにたくさん』
『ありがとうございます』
『とても、嬉しいです』

よかった。
少なくとも困らせてはいないようだ。

「こちらこそ」
『...こちらこそ？』
不思議そうに首を傾げている。
言葉の意味がわからない、と言ったところだろうか。

それはそうだ、彼からすれば
何に対してのこちらこそなのかわからないかもしれない。

こちら側の勝手な感謝の気持ちなのだから
伝わらなくて当然だと思う。

「メロンパンの事です」

…彼の頭にはてなマークが増えた気がする。
彼の行動は特別なことではなかったのだとすると
心あたたかい人なんだなぁ、と改めて実感する。

「なかなか差し出せませんよ」
「なので」
「こちらこそありがとうございます、です」
ゆっくりお辞儀をする。
視線を上げれば『アニ、アニ！あにえよ…じゃなくて』と
ぶんぶん手を振っている。

韓国語はあまりわからないけど、
その大きな手振りでなんとなく伝わる気がする。

『わからなく、』
突然口をつぐむ。

わからなく。…？
私の頭にもはてなマークが浮かんで見えてるだろうか。
んー、と唸りながら百面相している彼の言葉をまつ。
言葉が出てきたかと思えば
『勉強不足です…』と、
背中を丸くして、いかにもしょんぼりしている。

会話できてる時点で十分だと思うけどなぁ
そう口にしようと思ったが
昨日もしたような話だったのでやめた。

「おなかすいた、は」
「韓国語でなんて言いますか？」

彼の視線が私とぶつかる。
『ぺごぱ、です』
『でも』
『ひとつしか意味がありません』

ああ、そういうことか。
彼の言う勉強不足がなんだかわかった気がした。