お腹すいた (ページ4)

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お腹が減っているわけではないと彼女は僕に改めた。
ただ、それがいまいち分からなかった。

”お腹がすいた”とは空腹以外に使うこともあるのだろうか

そうなのかもしれない、
発音自体は違うように感じない言葉なのに
色んなニュアンスや意味がある事は習った覚えがある。

ここにいるのがチャニヒョンやリノヒョンなら
汲み取れた言葉なのかもしれない、と

ふたりの顔が浮かぶ。
同時に勉強不足を少しばかり悔いた

それなら、とメロンパンをコンビニ袋に戻す

次の行き場を悩んだ視線を彼女へ向けると
話しかけた時の驚いたような、不信感のような顔から
いつの間にか声をかける前の表情に戻りつつある。

何がそうさせているのだろうか。
もしくは、普段からこの調子なのだろうか。

『すごく、』
と言ったところで口をつぐむ

消えてしまいそうに見えた

これを伝えたところでどうなるだろう。
今のところ僕は
通りすがりにメロンパンを差し出してきた怪しい人、だ。

咄嗟に目の前のきらきら光る水面に視線をずらし、話をすり替えた。
不思議そうな顔をしているのが視界の端が入る

少し強引だったかもしれない。

「海外の方ですか？」
悶々としている横から発せられた最初の質問だった。

そこからちょっとずつ話が続いた。
僕も彼女もお互いに踏み込んだ話はしなかった。

だからなのか、人と話すことがこんなに心地いいのが珍しくて
そもそも見ず知らずの人となんて、なおさらだった。
この時間に制限がなければと思える位には楽しんでいる

もちろんそんなうまい話はなくて
彼女は時計を確認すると、ぎょっと顔を歪めた。

『あー、そろそろ帰りますか？』

なんとなく、こちらから切り出した。
名残惜しいのは山々だけど、時間が時間だ。

また話したい。
率直にそう思った。いや、おそらく声に出ていた。
すぐに口に出す癖直さないと

日本にいる間だけ、そう自分に言い聞かせて
明日の約束をした。

名前も聞かず、名乗りもせず。
それでいいと思った。むしろその方がいいとまで

この時間に一人で帰すのは忍びないと思ったが
立場上、関係上そこまでしてはいけない。
じゃあ、と手を振って背を向ける彼女につられて
小さく手をあげおじぎをした。

小さくなっていく背中を見送ってホテルへと踵を返す。

『あ』
名前を聞かないは良い。
名乗らないのもとりあえずは良い。

だけどさすがに時間は提案しておくべきだった。
大きくため息を漏らし、『ぱぼ』と肩を落とした。