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行き場を失ったメロンパンはどうにかコンビニ袋へとおさまった。
伝わってないけどわかったという事だろうか
”心にぽっかり穴があいた”
そう言葉にしたらあまりに悲観的で
現実を正面から受け止めたみたいで
お腹がすいて満たされない
そういう事にしておきたかった。
『すごく、』
『...きれいですね、ここ』
街灯が反射する川を指差して彼はわたしの視線を誘導した
確かに、水面がキラキラして見えて綺麗だ
ただ、肩を並べて談笑するには他人すぎる。
ぎこちない彼の行動と共に気付いたのは
日本語も少しぎこちないという事だった。
「海外の方ですか?」
『僕は、あー、韓国人です』
日本語お上手ですねと言えば
全然ダメです、と返ってきた。
そんなことないのに、と続けたがまたも否定されてしまった。
ファーストコンタクトメロンパンから比べれば
いくらかの警戒は解れていた。
彼なりの気遣いなのか
ポツリ、ポツリと話をしてくれた。
日本には仕事で来ている事、
日本の食べ物は全部美味しかったとか
このメロンパンをおすすめされて〜とか
これは韓国になかったとコンビニ袋から
沢山お菓子を取り出して見せてくれたり
苦にならない程度の話を本当に色々。
「こんな時間にお菓子食べたら明日顔浮腫んじゃいますよ」
そう自分で言って後ハッとした
今は何時だ。
流石に時間を忘れて話し込むような年頃ではない。
それに彼も明日仕事かもしれない
おもむろに携帯電話を取り出し
画面を軽くタップすると時計は3時を示していた
『あー、そろそろ帰りますか?』
私の視線に気づいた彼の言葉に「はい」と返事をすると
彼は顔をぽりぽりとかきながら
もごもごとなにやら韓国語であろう言葉が聞こえてきた
『あした、』
『あしたもいますか?ここ』
深く被った帽子をさらに深く被り直しながら
視線を地面に落とし
こちらを伺うような声色で発せられた日本語
明日もここに来ると言ったら、彼はまた現れるだろうか。
そう期待してしまうには十分な時間だった。
「はい、あしたもいると思います」
そう答えるとぱっと視線が上がり
『ぼくも来ていいですか』
なんて嬉しそうに聞いてくるものだから
可愛らしいなとさえ思ってしまった。
「じゃあ、またあしたここで」
控えめに片手を上げ彼に向けて手を振ると
控えめな片手とお辞儀が返ってきた。
そうしてお互い背を向けその場を後にした。
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作者名:csm | 作成日時:2024年3月11日 23時