お腹すいた (ページ1)

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遠距離恋愛での別れる確率は約80%
ネットの記事で目にした数値をふと思い出した。

その80%に該当した私は、だらだらと暗闇を歩いている。
日中よりも少しだけ涼しくなった6月の丑三つ時を回る頃
散歩するような人は少なく
とぼとぼとした自分の足音だけが遠くまで鳴っている。

こんな時間に女1人、不用心といえばそう。
ただ、彼との記憶が家中を支配していて
息が詰まって居心地が悪かったのだ。

ただそれだけ、

彼との思い出ひとつない場所を探して
寝静まった街へ繰り出して今に至っている。

「お腹、すいたな…」

ポツリと口にした言葉はちょうど大きな橋の真ん中で
立ち止まるにはもってこいのリバービューだった。

ふと夜空に目を向ける。
これがドラマだったらちょうど雨が降ってくる頃合い。

見上げた空はまるで快晴の後の夜空に
大きくて眩しい月がひとつ。
今日に限って白く輝いている。

「お腹すいちゃったな」

またひとつ言葉をこぼすと、視界がぼやけた。
ああ、虚しいのか、悲しいのか。
ムカついているのか。
自分の感情がわからないなんて、と
ぼやけた月から目を逸らした。

『食べます、か？』

唐突に頭上から降ってきた声に肩が跳ね上がり
咄嗟に胸の前に構えた拳をぎゅっと握った。

おそるおそる振り返る。

帽子を深く被った表情の見えない男性が1人。

コンビニで買ったであろうメロンパンを
控えめに差し出している。

「えっと」

正直状況をうまくのみ込めない。
男性とメロンパン交互に見つめると、
差し出されたはずのメロンパンがどんどん後退していく。

『あ、あやしいです、よね。すみません』

「い、いえ」

怪しいけど、「はい」とは言えず。

そもそもなぜ、メロンパン？
こんな夜中に見ず知らずの人に対してのメロンパン。

考えれば考えるほどよくわからない。
同時にちょっとおかしくって笑わないよう口元を押さえた。

彼へと視線を向けると、向こうは向こうで
なんとも言えない顔で百面相をしていた。

不審ではあるけど、不審者ではない。

言語化するにはこれが一番しっくりくる表現だった。

「おなかは減っていなくて」
そう彼に告げると少し目を見開いたように見えた
鳩が豆鉄砲を食ったような、そんな顔。
そしてゆっくり首を傾げた。

「お腹はすいたけど、減ってはない...みたいな」

我ながら難しいことを説明している気がする。
彼にとっては、頭痛が痛いと聞かされているようなもんだ。

彼の顔に険しさが増した気がした。