spring moon

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spring moon #41

刻一刻とばいばいしなくてはならない時間に近
づいて行っている事は確かだと言うのに、まる
でそんな現実から目を背ける様に、私達は何時
もとは違う道から遠回りをして帰路に着いた。

他愛もない会話を繰り返していくうちに、彼の
事を知っていっている事に堪らなく胸が満たさ
れていくのが分かる。

「ヌナ、このまま何処かに逃げようか」

ぽつりと呟かれた彼の言葉に顔を上げてみれば
幾分寂しそうに眉を下げる彼が私を見下ろして
いる為、胸は自然と強く苦しめられた。

逃げてしまえるのなら一層の事逃げてしまいた
いと思っている事も間違いでは無かった。

彼の事を知り、距離を縮めれば縮める程にまだ
傍に居たいのだと我儘を言ってしまいそうにな
るのだ。

「笑ってるダニエルくんが好きだよ？」

「でも、ヌナを帰したくないよ」

そんな会話を交わしている最中でさえも、家で
あるマンションまでの距離は短くなっている。

遠回りをして帰路に着いた筈だと言うのにも関
わらず、公園の木々の間から見える高身長のマ
ンションビルが段々近付いて来ている事に嫌気
すら感じてしまう。

「ダニエルくん...」

寂しさを紛らわせる様に名前を呼んでみれば、
ゆっくりと歩みを止めた彼が柔らかいキスを降
らせてくれる。

何時もに比べて幾分長い様に感じるキスに目を
虚ろにさせながらも、彼からの気持ちを受け取
める。

「あぁ、もう...自分でも分かんないくらいヌナ
を帰したくない」

唇が離れると同時に彼の腕に抱き寄せられてし
まえば、このまま離れなくなってくれたらどれ
だけ幸せだろうかと有りもしない事にちょっぴ
り期待を込めてしまう。

こういう時こそ大人にならなくてはいけない事
など充分、分かっている筈だと言うのに。

「ちょっとだけ、我儘言ってもいいかな...」

「なぁに、ヌナの我儘なんて幾らでも聞くよ」

彼の事が好きなのだと思えば思うほど、自分の
欲を受け止めて欲しくなってしまう。

今なら少しだけ我儘になってみても、誰からも
大人気ないなどと責められたりはしないだろう。

「もう一回...キス、して？」

私の言葉に反応する様に、身体をゆっくりと離
して体勢を整える彼は柔らかい笑みを浮かべな
がら私を見下ろした。

「可愛い...そんなの、我儘に入らないでしょ」

高校の制服が唯一、彼が年下なのだという事に
気付き直させてくれる。

そうでなければ、目眩がしてしまいそうな程に
彼は大人っぽくて幾分素敵なのだから。

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