spring moon

#27 ページ27

spring moon #27

幾分、前に比べて何倍も恋人らしくすら感じる
会話に頬を染めながら歩みを進めているうちに
あれだけ降っていた雪も気付けばぴたりと止ん
でしまっていた。

それ程降っていない雪は、既に積もっている雪
を多少覆った程度で収まっていた。

などと思っては暗くなり過ぎてしまった夜空に
目を向けていると前日に彼と別れた地下鉄入口
前へと辿り着いていた。

あの日は家まで送ってくれるという彼に申し訳
なくて、堪らず断ってしまった。

「今日はヌナを家まで送るって決めてたから...
だから、ちゃんと送らせて？」

と、予想していた言葉を先に言われる為、思わ
ず笑みを浮かべてしまった。

そんな私を見て、嬉しいの？なんて聞いてくる
彼に嬉しいけれど駄目なのだと言い訳を言って
みせる。

口では平気だからと言っているのに、内心まだ
彼と居たい気持ちばかりが大きくなっている事
も確かだった。

「でも、そうしたらダニエルくんが帰るの遅く
なっちゃうから」

「でもじゃないから、今は俺に送られててよ」

離そうとしていた手を握りなおされてしまった
かと思えば、私の手を引っ張る様にして歩き始
める彼の強引さが今は少しばかり嬉しかった。

「こっちだよ」

送る、なんて言いながら私の家であるマンショ
ンが在る方向を知らないであろう彼を連れて行
く為に足を大きく開いて彼に追いつく。

歩幅を合わせてくれている様だったけれど、幾
分足の長い彼に合わせて歩みを進めるのはどう
やら難しい様なのだ。

自分の足と彼の足を交互に見やっては、彼に気
付かれない様にそっと吐息を洩らした。

「ヌナは一人暮らしなの？」

「そうだよ、今年で二年目かな」

「俺は学校の宿舎だから...常に誰かと居るよ」

「楽しそうで良いけどなぁ」

常に誰かと居る事が時に窮屈だと思ってしまう
なんて言う彼が余りにも優しく微笑む為、本当
は嬉しいんだろうな、なんて笑みを洩らした。

「わ、また降って来た」

彼の声に顔を上げて見れば、さっき止んだばか
りだった筈の雪がふわふわと舞い落ちて来てい
た。

あれだけ降ったのだと言うのにまだ地面を白く
染める気なのかと吐息を洩らしながら、彼の肩
に舞い落ちた雪を手で払って見せる。

「酷くなる前に帰らなきゃ」

「うん、行こう」

彼の言葉を合図にする様にして、繋いでいた手
を繋ぎ直して歩みを進めた。

時刻は既に日付けを変えようとしている。

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