０時を過ぎても魔法はとけない２ (ページ9)

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あれからお坊ちゃまの仕事をする手はぴたりと止まった。
けれど、いつもの様にそれをうるさく注意する事を私も出来なかった。

『そろそろ出なければお時間に間に合いません。』

KH『ん…。』

『…今日は駄々をこねたりなどしないのですね。』

KH『…駄々をこねたら行かないで済む様にしてくれるのか？』

何故、私はこんな馬鹿な質問などしてしまったのだろう。酷く無礼で残酷のような気がした。

『…いえ、お連れ致します。』

KH『そうだろうと思ったよ…(笑)』

私には上流階級のお家の後継ぎにお生まれになったお坊ちゃまの気持ちは知る由もない。
だが然し、お坊ちゃまの感じる怒りや悲しさを汲み取る事は出来る。
ずっとお側に居たからだ。ずっとお坊ちゃまを見て来たからだ。

何故その様に、悲しそうに笑うのですか？
これから婚約者に会うと言うのに、浮かない顔で溜め息ばかり。
そのご様子からして、お坊ちゃまがニーナ様とのご結婚を望んではいない事が伺える。

だからと言って、何が出来るわけでもない。
それは私もお坊ちゃまも同じなのである。

逆らう事も、抗う事も。
決して覆る事のないその現実を受け入れ、飲み込むしか術がないのだ。

今、お坊ちゃまは何をお考えになって。何を思っているのですか？
どんな気持ちでいるのですか？
私ではそれを打ち明ける役目は果たせませんか？

KH『…なぁ。』

『は、はい…。』

KH『…帰らないで待ってろ。』

『…かしこまりました。』

不安なのかもしれない、怖いのかもしれない。
それが例え自分の望んだ人生でなくとも、敷かれたレールの上を進まなければならない運命を今、強いられているのだから。

私には何も出来ない。
救う事も気持ちを楽にしてさしあげる事も。
何一つお坊ちゃまのお力にはなれない。
そんな無力な自分が不甲斐ない。

何故こんなにも不安に駆られるのだろう。

お坊ちゃまがあの方のものになるのかと思うと。

何故、こんなにも。
胸が締め付けられるのか、胸が苦しいのか。
何故………。