【本編小説】この夏は君と。 (ページ42)

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東が運転する車で送って貰っている道中、私は未知なる場所への期待と不安で一杯だった。

今日の服装は変じゃないだろうか。
黒い膝丈のティアードワンピースに、日除けの白いフレアハット。靴はウェッジソールサンダルを選んだ。

初対面では第一印象が大切だから、出来るだけ派手すぎず地味すぎず……といった服を選んでみたのだが。

そんな事を考えている内に、車は海辺の道に差し掛かっていた。

窓から少し顔を出すと、心地の良い潮風が磯の香りを運んで来てくれた。

海に来るのは一昨年ぶりだっただろうか。
どこまでも広がる海と打ち寄せる白い波を眺めていたら、先ほどまでの不安が一気に吹き飛んだ。

これから私は、あの海辺に行くのだ。そう考えたら胸の高鳴りを抑えられなかった。

「お嬢様」

東の声に振り向くと、車はゆっくりと速度を落として停止する所だった。

窓の向こう、少し離れた場所に、数人の男女の姿が見える。

普段なら東が後部座席のドアを開けてくれるのを待つ所だが、今日は違った。

はやる気持ちを抑えきれず、私が自分でドアを開けたのだ。

「東、行って来るわね」

きっと、私はその時笑顔を浮かべていたのだろう。

「行ってらっしゃいませ」

東が優しい声色でそう言うのを背中で聞きながら、私は車のドアを閉めた。

車の窓越しに東に軽く手を振って、「ありがとう」と感謝の言葉を口にする。

そして、車に背を向けて私は歩き出した。

向こうに見える少年少女たちは、皆楽しそうに会話している。
すぐに溶け込めるだろうか。少し不安になったが、それでも歩く速度が落ちないのは不安より期待が勝っているからだろう。

会話の邪魔をしないよう、私は静かに彼らの元に歩み寄った。