【本編小説】この夏は君と。 (ページ39)

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◆愛嬌[三葉梢] ページ39

一刻前、純粋な疑問を素直に聞こうとすれば何故か塞がれた口。
もごもごと一生懸命に話そうとするも、塞ぐ手で上手く言葉を述べられない。いい加減発言権とやらを付与してはくれないだろうか。

隣のさーやも同じ状況下。因みに、先程自己紹介のくだりで渾名を付け合った。

　ずりずりと後ろに引きずられ、強制的に二人から距離を取る。何だ。里村君も紅邑君も初対面にしては息が合い過ぎではないだろうか？

　少しは抵抗を試みたが、もう諦める他無かった。
先程まで忙しなく動いていた口を閉じ、降参の意を込めて両手を上げる。こんな事今までやったことも無い。以前見た映画のワンシーンだけが頼りだ。

そうすると意を汲み取ってくれたのか離れる手。しかし眼前の光景はとても賑やかとは言えない。
すんみりさを通り越したどんよりとした雰囲気。互いに目を合わせない二人の関係性が今も気になって仕方が無い。後でさーやと聞きに行こう。

「あっ！見て見て！向こうにも誰か来てるみたいだよ」

後ろで里村君の声で辺りを見渡す。ぴしりと指された指の先には、ちらりと灰色が見えた。

「おー！ホントだー！！」

「君もこっちおいでよー！」

さーやと共に手を振りながら招く。しかし私達が走って向かった方が早いのではないかと思う程緩慢な動作だ。
だんだん近づくにつれて見えてくるふんわりとした笑みからか、その子の中性的な顔が際立っている。どことなく温和そうな雰囲気に、弟の顔が脳裏を過った。

　せっかちではないと思っていたが、そうでも無かったらしい。
考えるより先に身体が動くタイプなのは重々承知だ。

　砂浜を一蹴りしてぐっと距離を詰める。少し目を見開いた気がした。正確に言えばぎょっとされた。

さーや達とこの子の居た場所から丁度ど真ん中で向き合う。遠目で少し分かりにくかった髪は短髪で、さも面倒臭そうな感情に一瞬瞳の奥が淀んだ。

「三葉梢でーす。どうぞ宜しく！！」

「宜しくね～」なんて間延びした返事の後、ぞろぞろと後ろから足音が聞こえる。
彼方は彼方で此処に来るまで談笑をしていたのか、足並みはばらばらだが、皆でぴたりと静止した。
そして流れる様に自己紹介。