【本編小説】この夏は君と。 (ページ20)

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◇意思表示が下手［冬涙雪］ページ20

「雪ちゃん、雪ちゃん？」

「あっ！！えっ、あっ、ごめんね…！聞いてなかった。」

自分の席で大人しく座って、ぼんやりと外を見上げていたら、友人が私の名前を呼び続けていた。
雪が、ぼーっとぼんやりしていたせいで、雪の名前を呼びかけ続けていた友人はもー！と怒っている。

もう6月の下旬の始め。まだ暦の上では夏になっていないのに、外では蝉たちが自分の存在を必死にアピールするように、鳴き続けている。彼らのせいで外はうるさすぎるくらい賑やかだ。

「もう放課後だ…。」

放課後になっているという実感がないくらい、時間が進むのが本当に早く感じた。

朝届いているのを見つけたあの手紙。
あれが気になって、授業は全く集中出来なかった。
もう放課後になってしまうというのに、未だにあの手紙のことを考えている。

「もう！今日ずーっとぼーっとしてたよ？？」

友人がむすっと拗ねながら雪を見つめてきた。ふふ、と笑って雪は謝った。

「ごめんって。小春(こはる)ちゃん、拗ねないでよー。」

なんの違和感もないいつも通りの会話。この後はどうしようか、なんて話題を友人は話していたが、今日は用事があるの、と断って1人でぐるぐると頭の中で様々なことを考えながら帰った。

正直、あの美しい海や自然にはとても興味があった。

行ってみたい、見てみたい、なんていう好奇心。

しかし、それに対応するように、増えていく不安な気持ち。

きっとこの招待状が来たのは、私だけじゃない。
ただでさえ人と話すのは苦手なのに、初対面の人と、自分が1人の状態でちゃんと話せるかな…。

どうしよう、また上手くいかなかったら。

過去のことが頭を過(よぎ)り、右手が無意識に頬にまだ残る傷にそっと触れた。
傷口がどくどくと脈打つ感覚と、クラっとくる立ちくらみ。

「大丈夫、大丈夫、考えない、考えない。」

小声で自分に言い聞かせるように、呟きながら歩き続ける。
余計なことは考えないように、真上を見上げて、空を見る。
憎らしいくらいに清々しい涼やかな青色で、こんな過去に囚われている自分が、妙に情けなくなってくるので辞めた。

行きたい。
でも、私には行ける自信が無い。

短期間なら考えたが、7月から8月の終わりまでという長期だ。
自身がなくなるのも無理もない。

結局、前をよく見ていなくて電柱にぶつかったりもしたが、無事に帰ることが出来た。