【本編小説】この夏は君と。 (ページ18)

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一体どこの誰がこんな手紙を送ってきたのだろう。
俺はその緑色に惹き込まれ、夕飯の準備をしなければならないことも忘れて封筒から手紙を引っ張り出す。

「うわ……これ、写真？」

「すごいっ、綺麗な海！」

「絋矢にい、これどこの島？」

手紙と共に出てきたのは数枚の写真だった。
真っ青な海と白い砂浜、木漏れ日の射し込む涼しげな庭。他にも宿泊施設と思われる整えられた部屋に、輝く満天の星空。

俺だけでなく、亮哉と桃花もまじまじと写真を見つめている。
質のいい品のあるデザインの便箋には、封筒と同じように細く綺麗な字で文が綴られていた。
〝ここで、ひと夏の思い出を作りませんか〟

内容を見るに、これは招待状だ。
桃花がうっとりと頬を染めて声をあげる。

「いいなーっ、あたしも行ってみたい！」

「絋矢にい、行ってきなよ！」

「いや、けど……」

行きたい。
この写真を見て１ミリたりと思わない人間はそういないだろう。
俺もそうだ。

(けど、亮哉たちを家に置いていくのもな……)

両親は共働きだ。
もしも自分がこの夏をここで過ごすとなれば、２人にはこの夏休みの間苦労をかけることになってしまう。学校の宿題だってあるはずなのに、自分が家のことを投げ出して遊びに行ってしまってもいいものだろうか？

と、俺が言葉に詰まったその時。

「ただいまぁー」

がちゃりと玄関の扉が開いて、母の声が聞こえてきた。２人がばたばたと玄関へ突進する。今日は早い帰りだな、と思いながら俺も後に続いた。

「母さんお帰り」

「お帰りーっ！見てママ、おにーちゃんに手紙が来たんだよ！」

「すっげー綺麗なところなんだ！」

「手紙……？」

不思議そうにする母に、俺も手紙と写真を差し出す。玄関から上がってリビングのソファへ座りながら写真と手紙を見た母は、先程の弟たちのように目をきらきらと輝かせた。

「素敵ねぇ。一体どこからの手紙？」

「書いてない、っていうか俺は＿＿」

「絋矢にい、オレらのことなら心配いらないよ！」

行かないし、と続けようとしたが、それを亮哉に遮られる。

「はぁ？けど飯とかどうするんだよ、困るだろ？」

「それくらい大丈夫だよー、それにこんな素敵なお手紙貰って行かないなんて、まさかそんなこと言わないよね？」

腕を組んでこちらを見上げる桃花。
その「大丈夫」の自信は一体どこから来るんだよ、と言い返したくなったが、次に発せられる母のある言葉でそれは声にはならなかった。

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