【本編小説】この夏は君と。 (ページ17)

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◇雨と手紙と緑色［常葉絋矢］ページ17

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長い間灰色だった空からついにぽつぽつと降り始めた雨を見て、絋矢(こうや)は慌てて家へと駆け出した。
まだ６月なのだから、梅雨の時期はもう少し続くだろう。
洗濯物入れないとな、と考えながら家へとたどり着く。

家に入る前に郵便受けをちらりと覗き込むと、

(なんか入ってる……封筒？)

普段なら空っぽの郵便受けの中に、珍しく１枚の封筒がぽつんと置かれていた。
しかも、紙以外に何かが同封されているらしく、一部分が少し膨らんでいる。
雨に濡れないよう大切にポケットへ入れ、絋矢は素早く家の扉を開く。

「ただいまー」

「おにーちゃんお帰り！」

玄関に桃色と青色の小さな運動靴があるのを確認して、絋矢はその隣に自分の靴を寄せる。
家の奥へ声を掛けると同時に、２つに結んだ髪を揺らしながら妹＿＿桃花(とうか)が走ってきた。

「桃花、洗濯物入れるの手伝ってくれるか？」

「さっき入れといた！」

遅れて弟の亮哉(りょうや)もリビングから顔を出す。
そう言われてリビングの窓辺に行ってみると、妹が言った通り取り込まれた洗濯物は丁寧に畳まれてまとめられていた。

「助かる、ありがとな。学校の宿題終わったか？」

「あたしは終わったよー、亮哉はまだ！」

「うっせー、あとちょっとだけだし」

「洗濯物入れる前までゲームしてた癖に～」

双子のそんなやり取りに苦笑していると、ふとポストに入っていたあの手紙を思い出した。
ポケットから取り出すと、弟たちも興味を惹かれた様子で視線を向けてくる。

「おにーちゃん、それ誰のお手紙？」

「〝絋矢〟って書いてあるから、絋矢にいのだろ」

そう指摘されて封筒を裏返すと、丁寧な細い字で確かに〝常葉絋矢様〟と記されている。
手紙を送ってくるような知り合いなどいただろうか。
今どきスマートフォンで連絡ができるこの時代に、手紙なんか送って寄越す人がいるなんて珍しい。

「ん……なんだこれ」

封筒にあった小さな膨らみの正体が気になって、手紙を逆さまにして振ってみる。
すると、それはすとんと反対の手へ滑り落ちた。

「わーっ、見せて見せて！きれーい！」

「それ、本物？」

２人が騒がしくなったのも無理はないかもしれない。
実際、絋矢もそれを見て息を飲んだ。

出てきたのは宝石が埋め込まれたアンティーク調の鍵。
それはまるで真夏の日差しを浴びて輝く結葉(むすびば)のような、美しく深みのある澄んだ緑色をしていた。

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