【本編小説】この夏は君と。 (ページ16)

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◆変な日。［紅邑色羽］ページ16

冷たい液晶画面を指でなぞる。
指の動きに合わせて、鮮やかな赤色が広がっていく。
背まで伸びる深紅の髪が美しい少女が、画面の中で笑顔を向けていた。
……その絵の一部はまだ塗られておらず白いままだったり、ラフが透けていたりだったりするのだが。
自分を幾分か美化してそれらしきポーズを取らせたらこんな感じになるのだと思う。
"ハーフツインの女の子"を描こうとしていたのだが、塗りの段階で赤髪にした辺りから自分を意識し始めた節はあるかもしれない。僕は女ではないのだけども。

「あ、そろそろ帰ってくるかな……」

丁度良く車のドアが閉まる音とドアが開く音が階下から聞こえて来た。
例の封筒を片手に部屋から飛び出した僕は、急いで階段をくだった。

「お母さん！」

我ながら良くこんな大きな声が出たものだ、と自分で自分の声量に驚いた。
普段は他人に会わないが故に喋る機会も殆どない。加え部屋から出ることも稀な僕が、母親の帰宅と同時に階段を掛け降りて出迎え、目を輝かせ話したいことがあるのだと言わんばかりに手を引いて家の中へ招き入れたという事態にお母さんもビックリしてる。

「えっ、どうしたの色羽……」

「夏休みに行きたいとこが出来たの！」

僕の勢いに少々圧倒されながらも、お母さんは冷静に話を聞いてくれる。
僕は片手に持っていた封筒を差し出した。

「朝お母さんのくれた封筒、旅行？かな、それの招待状でさっ、そこに……行きたくて……」

言葉が終わるに連れ、小さくなる声。
どうせならもう部屋に戻るまでこの勢いで乗り切りたかった。なぜ続いてくれない。
受け取った封筒から手紙を出し、目を通し終えたらしいお母さんが封筒を返してきた。

「良いんじゃない。色羽が自分から出掛けたいっていうの珍しいし」

その言葉に僕は顔を明るくする。
今日はきちんと表情筋と感情がお仕事をしてる気がするな。
もしかしたら気がするだけで本当はしてないのかもしれないけど、今はそんなことどうでも良かった。

「本当っ！？行って良いの？」

「ホントホント、別に駄目とは言わないからさ」

心の中で拍手喝采が起こる。
僕は小さくガッツポーズをした。

「夏場は特に暑いーって言って部屋に籠るのに。今日の色羽なんか変だね？」

『変だ』なんて言った割に、僕もお母さんも笑っていた。