【本編小説】この夏は君と。 (ページ9)

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◇家族団らん［子野日憂］ページ9

気持ちの悪い暑さが体にまとわりつく。今日は蒸し暑く、そのせいで動かしている体が火照り、若干汗ばんでいた。さすが6月……なんて思いながらシャツを引っ張って、中に空気を取り込む。
　時刻は既に夕方。もう涼しくなってきてもおかしくないはずなのに、気温が下がる気配はいっこうに感じさせない。ただ家路を歩いているだけなのにこんな状態じゃ、これから先に来る夏はどうなるのか……と心配になってくる。

　ぼんやりとそんな考え事をして歩いていたのだが、気がつけば家の玄関前で立ち止まっていた。無意識とは恐ろしい。3年間も同じ通学路を歩いているから、ぼーっとしていても家にたどり着ける。最近よくあることだから気をつけないと。そう思いながらドアノブを捻って扉を開けた。

「ただいま～」

　リビングに居る家族に向けて声を張り上げる。「おかえり」という姉さんの声を聞き流して、おれは2階にある自室に向かった。

「あ、憂待って！」

　しかし、姉さんがおれを呼び止めた。振り返ると、リビングからひょっこりと顔を出して手招きしている姉の姿が。

「なに？」

　渋々姉さんの方による。すると、姉さんはおれにリビングの中を見せるように避けて、ダイニングテーブルの方を指す。おれは、つられるように指の先に視線を向けた。

「あんた宛に手紙が届いてたから。言わないと見もしないでしょ」

　「それだけ？」と聞き返すと小突かれた。いや、本当に。呼び寄せるくらいだからもっと重要なことかと思ったのだ。しかし、実際はただの手紙が届いたというだけで少しガッカリする。どうせまた、どこかの大学で行われるオープンキャンパスの知らせかなにかに決まっている。

「後で見ておくね～」

　そう適当に返事をすると、今度こそおれは自室に向かった。

　自分の部屋に入ったおれは、あまりの蒸し暑さに顔をしかめた。窓は開けていたのだが、風がないため意味がなかったみたいだ。扇風機出さなきゃなあ……。そう思いながら、布団の上に散らかした部屋着を手に取り着替え始めた。
　着替え終わったおれは、脱いだYシャツも片付けずベッドに横になる。湿気った布団はお世辞にも心地いいとは言えないが、ふかふかの布団は机で寝るより全然マシだった。横になるとなぜだか眠くなる。夕飯まで寝ようと決めたおれは瞼を閉じて眠りに落ちていった――。