【本編小説】この夏は君と。 (ページ34)

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◆磯の香り［子野日憂］ページ34

――6月下旬。

　あれから数週間経ち、6月も終わりを迎えていた。そう、差出人不明の手紙が届いてから既に何日も経っているのだ。
　手紙にはたしか、7月の頭にとある海辺に集合、という内容が書かれていたような……。ベッドに横たわって、ぼーっとした頭で手紙の内容を思い出す。それを思い出したことによって、指定されている日にちまで1週間を切っているという現実を突きつけられた。

　いや、間違いなくその日は一刻と近づいてきている。現に、まだ4日前だというのに実の姉は荷造りをしている。自分が行くわけでもないのに、あたかも自分が行くかのように張り切っている。時々、「憂も手伝ってよ」なんて小言を言いながら、キャリーケースに衣服や寝間着を詰め込んでいく。
　行きたくないと言えば嘘になってしまう。けど、準備や目的地まで行くのがダルい。やけに気合が入っている姉の前でそんなことを言うのはさすがに気が引けたため、声には出さず心の中で思う。

「とりあえずこれでいいかなー」

　荷造りが終わったらしい姉は、そう言いながらすっくと立ちあがって伸びをした。ちらりとキャリーケースの中をみると、確かに旅行での必需品は綺麗に収められている。それを見て「本当に行かなければダメなんだな」と実感した。

「修学旅行の前の日みたいな気分。すごくめんどくさい」
「でも当日は楽しんでたみたいだけどねっ」

　おれが呟くと、姉は明るく笑いながらそう言った。言われてみれば、前日は家から出ることを考えただけでダルかったのにいざ行ってみれば楽しかった、なんて記憶はたくさんある。今回の旅行が該当するかしないかは行ってみないと分からないけれども、まあきっと楽しくないなんてことはないと思う。……とはいえ、やはり目的地まで行くのがダルい。

「足りない物は明日お母さんが買ってくるらしいから、それは自分でやってね」
「うんー」

　やるかどうかは決めていないが、とりあえず返事をしておく。

　……結局、なかなかやらなかったおれに、見かねた姉さんが全てやったのだが。