夏と夜 (ページ2)

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「お前、黒ちゃんのこと好きなの？」

Aにそう投げかけたのは、ちょうど一年くらい前のことだったと思う。
気が合って仲が良かった俺たちはよく三人で飲んでて、そんな三人の空気感が心地よくて好きだった俺はある日気づいてしまった。
Aが黒ちゃんに向ける視線の意味に。
黒ちゃんを見つめるAが女の顔してるってことに。

『え、あ、…な、なん』

「いや動揺しすぎだろ、ウケる」

『なん、なんで、わく、』

「だってお前分かりやすいもん」

まるで魚みたいに口をぱくぱくさせながら俺を見つめるA、すっげーあほヅラ。
バレてないって思ってたのか、あれで。

『わ、わく…それ、こうきには』

「あ？あー、言ってないけど」

俺の言葉に心底ホッとしたような顔をするAに笑いそうになる。
いや、普通に言うわけねえし。
俺のことなんだと思ってんだよ、こいつ。

「黒ちゃんと付き合いたいんだ？」

『うーん…………うん、』

「ふうん」

『な、なによ』

「べつに？」

別に、なんでもないけど。
黒ちゃんと付き合いてえんだ、って思っただけで。

もし黒ちゃんと付き合ったら、こいつが黒ちゃんのカノジョになったら、ってぼんやり考える。

黒ちゃんと手繋いで歩いて、抱きしめられて、キスされて
黒ちゃんに抱かれて、めちゃくちゃにされるAを想像した。

『わく、わく？』

「…あ？あーごめん、なに？」

文字通り黒ちゃんのものになるAを想像して、怖いくらいイラついてる自分に気づいた。
ああそうか。俺がAの気持ちに気づいたのって、俺自身が無意識にAに同じ視線を向けてたからなのかも。

『まあ光輝は私のこと何とも思ってないんだけどね』

力なく笑うAの表情をみて、狡い考えが浮かんだ。

「…協力してやろっか？」

『え？』

「黒ちゃんとうまくいくように、協力してやってもいいけど」

俺の言葉に目をキラキラさせて喜ぶAはきっと知らないだろう。

優しい顔した俺の中にある狡い思惑に、Aはまだ気づかなくていい。

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