【短編集】天空の鳥

【龍騎】顔がいいだけ。 ページ6

* ネタバレ注意
･

顔が良いだけの、男だった。
｢俺と付き合ってよ｣
｢やだ｣

顔が良いだけだと、思ってた。
｢今日もダメ？｣
｢ダメ｣
｢なんで？こんなに良い男なのに｣
｢自称良い男は信用ならない｣

その男は、ストーカーか？というくらいには私の人生に尽く介入しようとしてきた。
その男の名は、芝浦淳。

中学も、高校も、大学も同じ。
高校と大学は私を追っかけてきたのだと、彼は言っていた。
努力せずに私を追いかけるためだけに同じ高校と大学にしてきたことが、私は気に食わなかった。努力した私に、金にものを言わせようとする芝浦の態度は腹立たしい以外の何物でもなかった。

｢……芝浦なんか嫌い｣
｢俺はこんなにもAのこと愛してるんだけどなぁ｣
｢とりあえず、その薄っぺらい口説き文句やめたら？｣
｢は？これが薄っぺらいって言うの？全然伝わってないじゃん｣

彼の全てが嘘臭かった。それは多分、彼の育ちのせいでもあるのだろう。
金持ちは嘘臭い。偏見かもしれないと思っていたけれど、彼を見ていればあながち嘘ではない気もする。

｢俺、最近ゲームしてるんだよね｣
｢……ゲーム？なんかあのよくわからないサークル？｣
｢いや、あれよりもっと面白いヤツ｣

屈託なく笑う顔は凄く、可愛いと思う。
そんなふうに思う自分に悔しいと思えるくらいには。

｢ふーん……私に構ってないで、そのゲームやってきたら？楽しいんじゃないの？｣

一瞬、芝浦の顔が曇る。それもたった一瞬のことで、すぐにあの笑顔が戻る。しかし、その次に発された言葉はいつも飄々としている彼の言葉だと思えなかった。
｢もし、俺が死んだら悲しんでくれる？｣

｢……せいせいする。芝浦のやってることってほぼストーカーだよ？芝浦の存在が私の悩みでもあったんだからね｣
｢……あ、そう｣

珍しく素直だった。
何となく悲しい顔をしていた。
私はそれに気づかない振りをした。
街に凶悪犯が出回った、という話が私に伝わったのはその直後のことだった。

その夜、頭の中でぐるぐるとしていることがあった。
もし、芝浦が、死んだら？
何故彼がそんなことを言うのか私にはわからない。それでも、何となく嫌な予感はしていた。

顔が良いだけ。黙っていれば、私だって。
そんなことは絶対に本人には言わない。
……追っかけてきてくれたこと、嬉しかった、なんて。こんな自分を、好きでいてくれたことも。全部嬉しかったなんて。


それから、私が芝浦と出会うことは無かった。

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