【短編集】大空の鳥

【ルパパト】月夜の邂逅 ☆ ページ22

* 夜野A:ノエルの彼女。魁利の姉。24歳。
* 唯月:ノエルの元カノ。パリの国際警察御用達レストランのシェフをしていた。


．

警察であり怪盗、という彼が向かう先は大体いつも同じだった。
｢ノエルさん！警察のお仕事お疲れ様です｣
｢A、会いたかったよ｣
もちろんここに来るのは怪盗業務を全うするためでもあるのだが、最近はどちらかと言えば小柄で可愛らしい彼女と会うため、である模様。
｢イチャついてもいいけど店の中はやめて欲しいよな｣と魁利が毒づくと、初美花が笑う。
｢お姉ちゃん取られちゃって悔しいんでしょ魁利！｣
｢魁利、お前そんなこと思ってたんだな……｣
そこに透真も参戦すれば、たちまちジュレはあたたかい空気に包まれる。

一頻り用事が済んだところで、ノエルは家路につく。少し経ったところで、彼は珍しい人物に遭遇した。
｢久しぶり、ノエル｣
｢唯月……どうして｣
黙って微笑む彼女。けれども、彼女の目は決して笑っていない。笑うというよりは口の端を吊り上げている、と表現した方が正しいのかもしれない。

｢……君が存在するわけない｣
｢それも貴方のせいでしょう？｣
彼女の言い方は酷く冷たい。その言葉一つ一つがノエルの心に刺さる。
｢忘れたとは言わせないわよ、あの日のこと｣
｢違う、それは｣
｢違う？何が違うって言うの？あの日貴方は私を捨てたはずでしょう？｣

ノエルが真っ直ぐ彼女を見据えた。その瞬間に見た彼女の目に光はない。
｢あれは、｣

その事件の犯人は狡猾な犯罪者、だった。
過去幾度となく潜入捜査をしていたノエルは、割と怨みを買うこともあった。
そんなノエルのことを怨んでいたその犯人は、唯月を誘拐した。一般人である唯月は恐怖に苛まれ続けていたはずだ。

当然、ノエルは助けに向かおうとした。場所もわからないのに無茶だ、と止められはしたのだが。しかし犯人は｢場所を教えても良いが唯月を助けるのと引き換えにパリの街を爆破する｣というテロ予告を送り付けたために事態は急変。
勿論、今ならVSチェンジャーを使って助けに向かうことが出来たのだろうが、その当時はまだそこまでの完成度ではなかった。使い物にはならない、そんな状態だった。

悩みに悩んで上層部が下した決断は、パリの市民を優先することだった。
1人の犠牲が多くを救った、なんてことは無かった。実際には、爆弾なんてどこにも無かった。

何も知らない唯月は、ただ自分はノエルに見捨てられたのだと思い込んだ。

_→←_

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す