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縁結。【前編】 ページ10

全体に雲が掛かっていて、朧げな夜だった。

星も見えない、月すらも見えない。ただ在るのは街を照らす街灯だけ。しかし、それももう遠くで、殆ど明かりなど無いに等しい状況。
そぅ、と吹いてきた風に、軽く自分の金髪が揺れる。

石畳で出来た階段から、ほんの少し横に逸れて、なるべく階段を使わないように、上に登る。
大抵の神社は横も整地されているから、まぁ、通れなくはない。

漸く登りきって、真っ赤な鳥居を潜らないように神社の境内に入る。確か、鳥居は潜っちゃ駄目だとか、なんとか。そんなことを言われた気がしないでもない。

どうしてこんな夜に神社なんかに来ているのかと言えば、落ち着ける場所が欲しいから、みたいな。
今は元旦でも大晦日でもないから、そして、夜に神社に来て参拝する人間なんて居ないから、こんなところには誰も来ない。

よって、ここ最近は、毎日夜中に通っているのである。義父も義兄も、家に居ないから。じゃあ一人で家に居ろよ、って言われるのかもしれないけれど、一人で家にいるのは、寂しいし、何処か怖い。落ち着かないのだ。

反面ここなら悪い人は来ないだろうし、人が居ないから、まぁ、寂しいのは変わらないけれど、胸がざわつく様な錯覚は、覚えずに済んだ。

賽銭箱に適当に五円玉を投げ込んで、手を合わせる。何を願う訳でもないけれど。ああでも、そうだな。責めて、今お話してくれるような人が欲しいな、なんて。

賽銭箱のある石畳の道から外れ、来た道を戻る。
そうして目の前にある、きっと転落防止のための柵に寄りかかり、また夜空を見上げた。相変わらず、何も見えない夜の空だった。

はぁ、と一つ息を吐く。寄りかかった柵がぎし、と軋む音を立てるので、ほんの少しだけかける体重を減らしたとき。


____不意、だった。

ひゅん、と土を攫っていく位強い風が一度場を吹き抜ける。自分の髪を突風に煽られながらも、その風の方を向く。正確には、向いたときに、声が被さった。

「……全く、折角縁を結んだというのに、自死しようとしているのか、君は」

「えっ???
あー……。なるほどね。別に世を儚んでる訳じゃないよ」

学生服の様な服の上の市松模様の羽織に、額の痣、そしてあまり見ない模様の耳飾りをつけたその人は、ぶす、と唇を尖らせそう告げた。何か勘違いされたらしい。いや、そりゃそうか。ぎしぎし音を立てる柵に寄りかかってぼうっと空を見てたら、誰だってそう思う。ごめんね、と一つ謝罪した。

縁結。【後編】→←いつか、枯れ果てるまで。



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作者名:朝焼。 | 作成日時:2020年1月26日 2時

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