お砂糖をひとさじ。 ページ8
「にっっが……。
なにこれ、人間が飲めるもんなの？マジ？」
_____放課後、誰も居ない教室。
よく冷えた黒い水筒を片手にうげえ、と顔を歪めている我妻善逸。その顔の歪みは彼の手にある水筒の所為である。
後輩(尚多分先に帰っている)が置いていったであろう水筒の中身をこっそり頂こうと思い滝飲みをしたら、その中身がとんでもなく苦かった。多分コーヒー。余りにも普通に飲むものだから、てっきり中身は緑茶か麦茶だと思っていたのに。
「……よくこんな、苦いの飲めるなあ」
ぽつりと呟く。
多分砂糖やら牛乳やらを何も入れない、所謂ブラックコーヒーなのであろう。これで牛乳か砂糖が入ってるとか言われたら俺はもうコーヒーを飲める自信がない。
きゅ、と水筒の蓋を閉めて前に向き直る。
これも届けてやらなくちゃ。家は_____まあ近い方だし。それに炭治郎が困ってるならちゃんと助けてやらないといけないよな。
珍しく立派な思考をした善逸が水筒を自分の学生鞄に突っ込もうとしたとき、不意に後ろから不思議そうな声がかかった。
「……我妻先輩？」
「……え、あ、今晩は、竈門くん。
これ、忘れていったよ？」
「ええ、知っています。俺はそれを取りに来ましたから。
けれど、どうして先輩がそれを持っているんですか？というかそもそも何で俺の教室に……」
むう、と少し唸りながら考える炭治郎。
俺の教室、という言葉に違和感を覚えるかもしれないが、一応彼らは呼び名どおりに先輩後輩の関係であり、教室も違う。
「ええとね、水筒はここにあったから。
で、此処に来たのは竈門くんが居るかなあって。ダメ元だけど、来てくれて良かった」
うへへ、と笑みを浮かべた善逸はそう言って水筒を炭治郎に渡して。
「……ホント、よくこんな苦いの飲めるよね……。
俺は無理よ」
ぽつりと呟いた言葉。
しかしそれが炭治郎の耳に入った瞬間、彼の音がとんでもないことになったのを善逸は容易に感知した。
……ただ、どうしてそうなったのか。
えっ何？もしかして怒ってるの？
「善逸」
「な、なに？」
「……この水筒で、飲んだのか？直接？」
今までてこてこと首を傾げていた善逸だったが、炭治郎の言葉を聞いてああなるほど、と手を打って。
「ううん、滝飲み。
大丈夫よぉ、関節キスなんて、そんなことしないから」
にぱり、と笑った善逸の口に、何時の間にか開けられていた水筒の口が触れ、コーヒーが善逸の口に入る。
_____先とは比べられない程、甘かった。
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作者名：朝焼。 | 作成日時：2020年1月26日 2時
