青林檎。 ページ14
「たんじろー、生きてる?」
「……逆にどうして死んでいると思ったんだ?」
携帯の呼び出し音が鳴る。携帯に表示された名前をきちんと確認してから通話に応答した竈門炭治郎は、いの一番に飛んできた生存確認に顔を顰めた。
よく突拍子もないそれに言葉を返せたと思う。
「いやあ最近暇でねぇ。ほら、もうすぐ連休じゃない」
もうすぐ連休の筈ならば今は忙しいと思うんだが、との言葉はしまっておく。
「だから、たんじろとかパン屋の手伝いの量凄そうじゃん?死んでると思ったのよ」
「気遣いなのかそれ……。
大丈夫だぞ、俺は。慣れているし、久しぶりに家族のことに専念出来るから」
「ちぇ、相変わらずだなぁおまえ。
そんなんだからモテるんだぞ裏切り者がよぉ⁉
マジでお前には絶対に二日目のカレーが美味しくなくなる呪いを掛けるべきみたいだな……」
____二日目のカレーは美味しいから嫌だ。せめて1日目にしてくれ。
そんなツッコミを返せる時点でかなりズレているが、彼の恨み節にはもう慣れているので、かなりの塩対応、とやらである。それに、本人には自分がモテるという自覚がない。恨んでいる本人さえも。
お互い向けられた恋愛感情についてはとことん鈍いので。
「んあー、ごめん話逸れたわ。
んでね、その、もし良かったらなんだけど、手伝い行こうかなぁ、って」
「……手伝い?何の?」
何故察することが出来ないのか。確かに何を手伝うかは言っていないが、この文脈なら察せるだろう、普通。己のせいなのは分かるがもう少し鋭くなってほしい、と、善逸は溜息を吐いた。
「パン屋だよ、お前んとこの。
もしかしたらお泊りになるかもしれ」
「少し確認取ってくるな善逸!!」
まさか言葉を遮られるまでの食いつきをするとは思わなかったため、少しぽかーんとする善逸であったが、ああ、うん、よろしくね……と小声で応答した。炭治郎は携帯をその場に置いて駆けて行ったので声は聞こえていない。
確かに彼に肯定されたのは嬉しいが、問題はその後の言葉をちゃんと聞いていたのか。それは包み隠し切れずに、
「お泊りのとこ、聞こえてたのかな……」
不安げに呟いた。
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そっと携帯を机に置き、はぁと息を吐いた。
連休は店を閉じて、旅行する約束だったのだけど。
それでも、彼の気遣いは蹴ることが出来ない。
困ったように、もう一度息を吐く。
けれどその表情は、口角を上げ、愛いものを見る様に笑んでいた。
連華。【本誌(二百五話)ネタバレ注意です。】→←慟哭。【本誌(二百二話)ネタバレ注意です。】
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作者名:朝焼。 | 作成日時:2020年1月26日 2時