慟哭。【本誌(二百二話)ネタバレ注意です。】 ページ13
何かが聞こえる。
それは風の音で、人の声。
己に向けられたのは、敵意でも、殺意でも、何でもない。
ただの、慈しさだった。
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どうしようもなかった。
己に、無惨の行動を止める余裕など、どこにもなかったのだから。
呼吸も止まり、心拍すら止まり、生きているのは細胞だけ。
手も足も動かせない状態で、抗うことなど出来なかった。
溜息もつい口から出てしまうくらい、残酷で。
どうしてこうなったんだろうか。
俺も禰豆子も、何一つ悪いことなどしていないのに。
今まで、そんな思いは噛み殺して、前だけ向いて、生きてきたけれど。
もう、限界だから。
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鬼と化した竈門炭治郎。それに相対するのは、水柱、冨岡義勇、嘴平伊之助、我妻善逸。
鬼殺隊だというのに、刀を抜き完全な敵意を見せるのは冨岡義勇ただ一人である。
嘴平隊士は刀を抜いたものの、竈門炭治郎を斬り伏せることを躊躇った。
周囲に満ちるのは慟哭。
残されたこの三人は、皆炭治郎に恩や借りがある。
返せないまま終わるのは嫌だと、心の内は同じであろう。
然し、今の炭治郎には日輪刀での斬撃も、況してや陽光灼けも通じない。
要するに、打つ手がない。
先刻、冨岡義勇は殺せと叫んだ。
我妻善逸、並び嘴平伊之助は、それを拒んだ。
____要するに、竈門隊士はまだ、死ねない。
とん、と彼の体に、妹の体が当たった。
それは本当に軽く。ただ、そこから吐き出された号哭は、先ほどの三人よりも、重かった。
手を伸ばせば、やろうと思えば殺せる距離。
そこに、妹がいる。勿論、今の竈門隊士に理性などあるわけもない。そう判断した我妻隊士、並びに嘴平隊士は、同じように竈門炭治郎に抱きついた。
片や五月蝿く泣き叫びながら、方やただでさえ硬かった石頭を何回もぽかぽかと殴りながら。
三人、纏まって、なんとか、彼を救いだそうと。
「もうこれしかないんだって、分かってるから、だから、お願いだから」
しがみつきながら、必死に、訴える言葉一つ。
頼むから、もう、我慢しなくていいから、
泣きながら、それでも伝わる様に訴える言葉二つ。
全部、全部背負わせちゃって、ごめんなさい、お兄ちゃん。でも、だからって、こんなことしたら駄目だから、ね、
猪頭の下で泣きながら、訴える言葉三つ。
お前、前までめっちゃ優しかったじゃねぇか。
んだから、早く、
_____一緒に、帰ろう。
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作者名：朝焼。 | 作成日時：2020年1月26日 2時
