朝日の中で。 【本誌(二百話)ネタバレ注意です】 ページ12
_____視界が歪む。
がくん、と脱力したように、膝から崩れ落ちる。
もう何も見えないし、何の匂いを嗅ぐこともできない。周りの、血の匂いさえも。
そんな中でも、唯一、煉獄さん、そして義勇さんとの思い出だけは、もう二度と離さないと誓ったそれだけは、しっかりと残った片手で握りこんでいた。
追撃が来ない。
無惨は、斃れたのか。
もう、それしか分からない。何を理解することも出来ない。
先程から視界は暗転していくばかりで、一向に明るくなってはくれない。
_____成る程。
どうやら自分は、此処で死ぬらしい。
確かに先程から息がしづらいとは思っていたが。
急速に冷えていく体温。呼吸で無理矢理細胞を活性化させていたからだろうか、その変化がよく分かる。
もう指一本動かせない。片手で日輪刀を握り、何かに突き刺すような姿のまま、膝を折り、生き絶えるらしいな、俺は。
死にたくはない。
まだ自分の妹が人間に戻れているか分からないのだし、ずっと一緒だという約束を破ることになるから。
しかし、もう、どうしようもないのだ。
もう視界は殆ど黒い。何も見えないほどに。
その中を藻搔いて進んだとして、その果てに見えるものもまた漆黒なのだから。
要するに、竈門炭治郎は、諦めていた。
どうにも出来ない現状に、最後の最後で、ついに折れた。折れてしまった。彼の日輪刀のように。
_____家族みんなが待ってる、二人が帰ってくるのを。
聞こえた、声。
確かこれは、まだ、無惨と戦っている時の、善逸の。
_____だから、炭治郎は、絶対に、絶対に、死なない!!
成る程、最後の最後で、裏切ってしまったらしい。
すまないな、善逸。でももう無理なんだよ。
だからせめて、禰豆子と_____。
ばちこん。
「ふざっけんな!!
なに一人で死のうとしてんだぁ!?
ダメよ俺叫んだじゃない!!居場所バレるの覚悟で叫びまくったじゃない!!
無駄にしようとしないで下さる!!?」
殴られた。日輪刀の鞘で。凄い勢いで。がつんと。
「……うるさいぞ、我妻」
「だーっ!!
五月蝿くもなりますよだってこいつ確かに脈は止まってるけど生きてますって!!呼吸してないけど、なんか考えてる音しますもん!!なぁ伊之助!!」
「そもそも権八郎はこれで死ぬの三回目くらいだろ?生きてるだろんじゃ」
「……お前らは炭治郎を何だと思っているんだ……?」
どうしようもないくらい優しくて、それでいて滅茶苦茶に頭が固い人間です、という声が、聞こえた気がした。
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作者名:朝焼。 | 作成日時:2020年1月26日 2時