警報、その3。 ページ4
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「ああー、ほんまに部活行きたくない……」
「え?どうしたの急に」
いつもは帰りのホームルームが終わった瞬間にビュンで体育館へと向かうはずの治くんは、今日は何故か立ち上がらずに机に伏せっている。
珍しいな、何かあったのかな。
心配して声をかけると、ガシッと腕を掴まれる。え、な、何!?
「今日、朝から北さんにバチくそに怒られてん……」
「ああ、そういうことね……」
私は事情察したりというように天を仰いだ。北さんといえば、宮双子や角名くんが唯一恐れる三年生の先輩だったはずだ。
「なんで怒られたの?あと、腕離してもらえると嬉しいな」
「ロードワーク中にツムと喧嘩して道それた挙句に仲裁してくれた銀に怒鳴ってまって……」
「銀島に意地悪したらダメだよ、全く。あと腕を離して」
何度言っても治くんは私の腕を解放する気はないようだった。軽くぐい、と引っ張ってみても、同じかそれ以上の力で引き寄せられる。
私だって今日は部活に行かなきゃなんだけど、このまま拘束されてるとミーティングに遅れちゃうかも。
「治くん、多分もう北さんも怒ってないし銀島だっていつも通りだよ。大丈夫だから部活行こう」
治くんはよく私に冗談で結婚してとか言うけど、これは奥さんというより母親の仕事である。
というか、今まで北さんに怒られることなんて両手の指じゃ足りないほどにたくさんあったはずなのに、どうして今日だけはこんなにも気分が乗らないんだろう。部活に行きたくなくなるほど酷く怒られたのだろうか。
「ねえ、どうしたら腕離してくれる?部活行かないと」
「……Aちゃんが頭撫でてくれたら、やる気でるかもしれんなあ」
絶句した。このために私を引き留めたのか、この男は。
治くんは策士だと、一瞬忘れては痛烈に思い出させられる。伏せた顔の中はきっと、してやったりのニヤリ顔だろう。
私はため息をつきながら、掴まれていない方の手を治くんの頭の上にぽんと乗せた。髪の毛は見た目よりも柔らかくて、さらさらしている。
数秒撫でてやっても治くんは顔を上げなかった。
「治くん?もう行くよ、私」
「ちょ、お、待って……」
私の腕を掴む力が弱まったので、するりと私の腕を抜き取った。少し袖が皺になっている。
治くんは顔を上げないまま、小さい声で言った。
「今、ほんま顔赤いねん……先行っとって……」
策士なはずの治くんは、すっかりしおらしくなってしまったようだ。
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冬咲(プロフ) - いすみさん» そんな嬉しいお言葉をいただけるとは…!😭✨沢山きゅんきゅんしてくださって本当に嬉しいです! (4月17日 16時) (レス) id: 17b4672103 (このIDを非表示/違反報告)
冬咲(プロフ) - 黒尾ファンさん» 完結まで読んでくださりありがとうございました🥲💖違う作品も是非楽しんでくださいませ〜! (4月17日 16時) (レス) id: 17b4672103 (このIDを非表示/違反報告)
いすみ(プロフ) - まずは完結おめでとうございます!!!!もう一周したいと思います。まじでその辺の恋愛漫画よりキュンキュンしました。素敵すぎる作品をありがとうございます🥲❤️❤️ガチでLOVE。 (4月16日 22時) (レス) @page34 id: b9d4cbed9d (このIDを非表示/違反報告)
黒尾ファン - あまりにも、なまってもうて、すんまへん、、、。😭 (4月15日 21時) (レス) id: 13c9948002 (このIDを非表示/違反報告)
黒尾ファン - 完結おめでとうございます。応援してました!!どうも、黒尾ファンです。この作品結構の間見てきたんやけど最高やね♡大好きやわ。違う作品も見てみるけん、これからも頑張り〜や。また一から読みますさかい。 (4月15日 21時) (レス) @page34 id: 13c9948002 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冬咲 | 作成日時:2024年3月26日 19時