警報、その26。 ページ30
．
「ごめんね、ほんと、ご心配をおかけしました」
治くんに連れられて教室に戻ると、そこにはバレー部二年生のレギュラー面子が勢揃いだった。治くんの机を囲うように集まっていた彼らは、私の姿を見つけた瞬間、ほっとしたような表情を浮かべる。
「大丈夫やったん？随分遅かったけど……」
「うん、大丈夫」
「襟のとこどうしたの？」
「あ、やば、くしゃくしゃだ」
角名くんに指摘されて、少しドキッとした。横内くんに胸ぐらを掴まれてから直していなかった襟は、中心に皺が集まるようにぐちゃっとしている。
食べかけのお弁当を放置したままだったことに気づいて、私はそれをそっと仕舞おうと蓋に手をかけた。あんなことがあって、さすがにもりもりお昼ご飯を食べる気にはなれない、しかも、昼休みが終わるまでそんなに時間が残っていなかった。
「食わんでええの？」
「うん、あんまりお腹空いてないし……部活始まる前にちゃちゃっと食べるから」
「……そか」
何かを察したような顔の銀島。普段は少し鈍感というか天然なところがあるけど、付き合いの長さからかこういうところは察しが良かった。
「でもあれだね、こんなに微妙に残ってるとおやつにしては多いし昼ごはんにしては少ないし面倒くさいね、はは……」
「……」
「…………」
「………………」
「ねえなんで皆暗いの！？お通夜みたいな雰囲気やめてよ！」
らしくもない。いつもは私がいる時によく喋る治くんが全くと言っていいほど言葉を発しないし、銀島は気を使いすぎて話せてないし、角名くんはスマホ見てるし、侑くんはなんとなく空気を読んで静かにしている。やめて、私ばっかり空回ってるから。
助けを求めて治くんの方を見ると、彼はぽつりと口を開いた。
「……無理に笑う必要ないねん。そんなAちゃん、辛くて見とおない」
「……え、あ、うん……」
「怖かったんやろ」
「…………」
ぎゅ、と治くんの手が私の手の上に重なった。やっぱり、横内くんとは違う。優しくて温かくて、安心する手だ。
……それと同時に手の緊張が解けるのを感じて、ああ、私は怖がっていたのかと、やっと自覚した。
「ありがとうね、治くん」
治くんの手の上にもうひとつ、私の手を重ねた。
「おん………………って、はあ！？」
「嫌だった？」
いやいや、と頭を横に振る治くんを見て、私は思わず吹き出した。大胆になった理由は、きっと彼への好きを確証にしようとしたから。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 960人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
冬咲(プロフ) - いすみさん» そんな嬉しいお言葉をいただけるとは…！😭✨沢山きゅんきゅんしてくださって本当に嬉しいです！ (4月17日 16時) (
レス) id: 17b4672103 (このIDを非表示/違反報告)
冬咲(プロフ) - 黒尾ファンさん» 完結まで読んでくださりありがとうございました🥲💖違う作品も是非楽しんでくださいませ〜！ (4月17日 16時) (レス) id: 17b4672103 (このIDを非表示/違反報告)
いすみ(プロフ) - まずは完結おめでとうございます！！！！もう一周したいと思います。まじでその辺の恋愛漫画よりキュンキュンしました。素敵すぎる作品をありがとうございます🥲❤️❤️ガチでLOVE。 (4月16日 22時) (レス) @page34 id: b9d4cbed9d (このIDを非表示/違反報告)
黒尾ファン - あまりにも、なまってもうて、すんまへん、、、。😭 (4月15日 21時) (レス) id: 13c9948002 (このIDを非表示/違反報告)
黒尾ファン - 完結おめでとうございます。応援してました！！どうも、黒尾ファンです。この作品結構の間見てきたんやけど最高やね♡大好きやわ。違う作品も見てみるけん、これからも頑張り〜や。また一から読みますさかい。 (4月15日 21時) (レス) @page34 id: 13c9948002 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：冬咲 | 作成日時：2024年3月26日 19時
