小休止。 ページ29
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side 角名
「──あれ、Aちゃんおらへんの?便所?」
「あ、おかえり」
購買戦争で勝利を遂げたらしい双子は、ほくほく顔で教室に戻って来た。しかし片割れの治が発した一言目というのは、まあ予想通りというか、宮本さんのことで。
本当のことを言ったら面倒なことになるだろうな、と、俺は口をつぐんだ。治はあいつを人一倍嫌っているから。
「Aなら……あの、バスケ部の奴に呼ばれとった」
銀の馬鹿!!と叫びたくなるのをグッと堪えた、えらい、俺。
しかしそんな俺の心の中の平穏もほんの一瞬で、目の前に突っ立っている治の顔がみるみるうちに暗くなっていくのがわかった。あー、やばい。大人しいっつっても侑とDNAは同じわけだから、怒ると手がつけられないんだよな。
「割り込んじゃだめだよ、治」
「そら、AちゃんがOKするとは思っとらんけど……あいつフラれた腹いせでなんかやらかしそうで嫌やねん」
「告白前提じゃん。……ま、そうだろうけどさ」
横内は、宮本さんのことを好いている。
確かに宮本さんって褒め上手だしフレンドリーだし、かといってうるさいタイプでもなくて、色んな人に好かれるのもよくわかる。その第一被害者は、俺の目の前にいるわけだけど。
「まあ大丈夫やろ。Aああ見えて結構強いしな」
「……え、そうなん?」
「おん。小学生ん時は男子に帽子盗まれて追っかけ回してたで」
「嘘やん!」
「絵に描いたようなおてんば娘じゃん」
「せやねん」
俺と侑は驚いて、思わず視線を交換した。あの“お淑やかな吹奏楽部の女の子”が、実はそんな面も持ち合わせていたとは。
「…………なあ、さすがに遅ない?もう俺らが戻ってから五分くらい経ってるやろ。どんくらい前からおらんの?」
「えっと、昼休み始まって十分くらいで呼ばれてたけど……」
ずっと黙っていた治がようやく口を開いた。宮本さんが横内に呼ばれてから、きっともう一五分は経とうとしている。ただの告白にしては遅く、宮本さんは長話をするタイプではない。
「……俺、行くわ」
「はあ?行くって宮本さんのとこ?でもどこに行ったかはわからないよ」
「探す」
キッパリとそう言って治は立ち上がった。せっかく買えたパンを机に置いて、相変わらず顔は険しいまま。
……やっぱお前かっこいいよ、そういうとこ。
──治とくしゃくしゃの襟を直さないままの宮本さんが戻って来たのは、その十分後のことだった。
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冬咲(プロフ) - いすみさん» そんな嬉しいお言葉をいただけるとは…!😭✨沢山きゅんきゅんしてくださって本当に嬉しいです! (4月17日 16時) (レス) id: 17b4672103 (このIDを非表示/違反報告)
冬咲(プロフ) - 黒尾ファンさん» 完結まで読んでくださりありがとうございました🥲💖違う作品も是非楽しんでくださいませ〜! (4月17日 16時) (レス) id: 17b4672103 (このIDを非表示/違反報告)
いすみ(プロフ) - まずは完結おめでとうございます!!!!もう一周したいと思います。まじでその辺の恋愛漫画よりキュンキュンしました。素敵すぎる作品をありがとうございます🥲❤️❤️ガチでLOVE。 (4月16日 22時) (レス) @page34 id: b9d4cbed9d (このIDを非表示/違反報告)
黒尾ファン - あまりにも、なまってもうて、すんまへん、、、。😭 (4月15日 21時) (レス) id: 13c9948002 (このIDを非表示/違反報告)
黒尾ファン - 完結おめでとうございます。応援してました!!どうも、黒尾ファンです。この作品結構の間見てきたんやけど最高やね♡大好きやわ。違う作品も見てみるけん、これからも頑張り〜や。また一から読みますさかい。 (4月15日 21時) (レス) @page34 id: 13c9948002 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冬咲 | 作成日時:2024年3月26日 19時