警報、その14。 ページ16
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「──それにしても、治くんも可哀想やんなぁ」
練習試合の翌日、いつもの通り朝練を終えて教室へと向かう最中に立ち寄ったトイレ。私は洗面台の方からそんな話し声が聞こえてきて、なんとなく個室の中に留まった。まだチャイムまでは時間がある、大丈夫。
「あー、あの子な。宮本さん?やっけ、治くんのお気に入り」
わ、私かぁ……。
そうだとは思ったけれど、こうやって自分の話をしている場面に遭遇してしまうとなんとも居心地が悪い。
なんだろう、悪口でも言われちゃうのかな……なんて嫌な想像は膨らむばかりだ。私は聞きたくないというのに扉の外に耳を傾ける。
「あないに好かれとるのに付き合うてないらしいで」
「贅沢やな、うちやったら二つ返事でオーケーすんのに」
「別にド級美女ってわけでもあらへんのになんで好かれとるんやろな」
「さあ。餌付けでもしとるんちゃうん?」
「あー、確かにお菓子とかですぐ釣られるもんな」
わお……私は思わず一歩後ずさった。個室の中で後ずさっても意味ないんだけど。
でも、その子たちの言っていることって、ほぼ事実なんだよね。私は治くんに、多分、多分だけどかなり好かれている。なのに付き合ってない……というのは、彼の好意が紛れもない恋愛感情なのかがわからないからなんだけど。私がド級美女じゃないのも本当。治くんは何故かいつも褒めてくれるけど。
あと、餌付けっていうのは……言い方は悪いけど、そういうことになっちゃうのかなあ、あれ。今日のカバンに入ってるのはアイシングクッキー。昨日割と夜中までかけて作ったから、食べて欲しいとは思っていたんだけど。
「………」
私はチラリと腕時計の時間を確認した。チャイムまで後2分、そろそろここから出なければ。もういい、どうにでもなれ!なんて思いながら個室を出ると、そこには二人の女の子。
私が彼女たちを一瞥もせずに手を洗い手を拭き完全に立ち去ろうとすると、二人は気まずそうに視線を交換し合ったのが鏡越しに見えた。
「おはよお、Aちゃん」
「おはよ、治くん」
彼に好かれたと知ったあの日から、周りの目を過剰に気にすることはやめたのだった。私は私、やりたいようにやる。喋ったこともない他人の言葉に惑わされる必要はない。
……でも。
「治くんはさ……私がもしこれからお菓子持ってこなくても、私に失望とかしないの?」
そう聞いてしまったのは、好奇心からか不安からか。多分、後者。
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冬咲(プロフ) - いすみさん» そんな嬉しいお言葉をいただけるとは…!😭✨沢山きゅんきゅんしてくださって本当に嬉しいです! (4月17日 16時) (レス) id: 17b4672103 (このIDを非表示/違反報告)
冬咲(プロフ) - 黒尾ファンさん» 完結まで読んでくださりありがとうございました🥲💖違う作品も是非楽しんでくださいませ〜! (4月17日 16時) (レス) id: 17b4672103 (このIDを非表示/違反報告)
いすみ(プロフ) - まずは完結おめでとうございます!!!!もう一周したいと思います。まじでその辺の恋愛漫画よりキュンキュンしました。素敵すぎる作品をありがとうございます🥲❤️❤️ガチでLOVE。 (4月16日 22時) (レス) @page34 id: b9d4cbed9d (このIDを非表示/違反報告)
黒尾ファン - あまりにも、なまってもうて、すんまへん、、、。😭 (4月15日 21時) (レス) id: 13c9948002 (このIDを非表示/違反報告)
黒尾ファン - 完結おめでとうございます。応援してました!!どうも、黒尾ファンです。この作品結構の間見てきたんやけど最高やね♡大好きやわ。違う作品も見てみるけん、これからも頑張り〜や。また一から読みますさかい。 (4月15日 21時) (レス) @page34 id: 13c9948002 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冬咲 | 作成日時:2024年3月26日 19時