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智くんに日誌を任せてうちまで帰ってきた。
翔ちゃんはまだ帰ってないんだなと分かったのはこの時間在宅なら点いている玄関灯が点いていなかったから。
リビングで床にカバンを下ろして中からピンク色で飾った箱を取り出して机の上に投げたらさっき智くんがごみ箱に捨てた義理チョコの箱よりもずっしりとした重みが音になって一人きりのリビングに響いた。
いつもは私が帰ると先に翔ちゃんが上がりこんでいて勝手に冷蔵庫の前日の夕飯の残りをつまんでいたりするのに。
昨日も、今日も、遠慮も知らずにくつろぐ翔ちゃんを見ていない。
「はぁ……」
喧嘩なんて、するんじゃなかった。
沈んだ気分のまんま、イチゴの色をしたリボンをぐいと引っ張る。
私の気持ちと裏腹にしゅるりとこともなくほどけたリボンをぽいっと手元から捨てた。
包み紙も適当に破いてリボンの上に捨てて向こう側へ追いやる。
去年よりちょうどいい固さにできた自信作のチョコは何となく歪んでいるようにも見える。
さっき投げ捨てたからかもしれない。
一粒つまみ上げて口の中に放り込む。
「こほっ」
智くんの気持ちが今わかった。
ココアパウダー多かったかもしれない。
八つ当たり半分で作ってたからかけすぎたのかそれとも無意識に作ってたから加減してなかったのかが如何せん癖で作ってしまったものだから記憶にない。
それでも味は普通に生チョコだった。
生チョコが生クリームチョコレートの略らしいということを知ったのは作り方を初めて調べたもうずいぶん昔の話だ。
あの頃はガナッシュも生チョコも分からなくて、だけど翔ちゃんが市販の生チョコを好きで食べてたから絶対にそれを作ってみたかった。
結果的に初心者に優しい難易度だったことはラッキーだったと思う。
「……にがい」
苦いのは味じゃなくてたぶん気持ちの方なんだろうけど。
そんなこと考えるのすらなんだか苦い気がする。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年2月14日 18時
