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底にぶつかってかさりと音がする。
智くんは私があげたチョコの箱をあんなにも簡単に本人の前でゴミ箱に投げ捨ててしまえるのだから翔ちゃんがバレンタインを邪魔したなんてことは一ミリもないと思う。
だけど翔ちゃんはたぶんそんなこと理解しない。
だって翔ちゃんはあんなに賢いのに、女心にはどうしてかとんと疎い。
私がハンカチひとつで悲しくなる理由も理解できなければピンクで飾った本命チョコの箱を智くんに押し付ける理由なんて想像もできないに違いないのだ。
あぁホント、私はなんて厄介な男の子を好きになってしまったのだろう。
それもこれも、私の心をいつも掴んでる翔ちゃんが悪い。
「ほら、帰るぞ。日誌は出しといてやるからさっさと翔くんに弁明してこいって」
「智くんがさっさと受け取ってくれてたらこうはなってなかった」
「へーへーそりゃ悪ぅございましたね」
絶対悪いなんて思ってない智くんだけど本当に日誌は出してくれるようで分厚い割に対して中身なんてない学生のくだらない日常が詰まったそれにしては重たい日誌を持ち上げる。
あれを背負わされるその日が、私はちょっぴり憂鬱だ。
一緒に日直になったことが人生で何度かあるけれど、翔ちゃんはこの空っぽのわりに重たいファイルをいとも簡単に持ち上げてくれる。
テキトーに書いてさっさと出そうぜ、んで新しくできたアイス屋に寄り道しよう。
なんて白い歯を見せて笑う翔ちゃんが私は好きだ。
とくべつアイスが食べたいわけじゃなくたって翔ちゃんがそう言えば私は喜んでアイスを食べに行く。
そうすれば決まって翔ちゃんは私の持ったストロベリーのアイスを「一口ちょーだい」と私が「いいよ」と言う前に自分のスプーンでごっそり攫っていくのだ。
さすがの翔ちゃんもイチゴ味を持った女の子相手だとしてもそんなことをするのは私にだけ。
それが再確認できるから、アイス屋さんに寄り道するのは嫌いじゃない。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年2月14日 18時
