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「バレンタイン、終わっちゃったなぁ」
「そうだね」
「チョコまた作ってよ」
「いいけど、味は保証しないよ？」
「だいじょーぶ、美味しかったから」
テーブルの上にぶら下がった二人で選んだペンダントライトの暖色の明かりに雅紀の小さな顔が照らされている。
カウンター越しにこちらを見上げる雅紀の前髪がちょっと伸びてきたなぁって思って、また一緒にいる時間が積み重なっていることを実感する。
小さくて、くすぐったい、これを何と呼ぶだろうか。
「ねー、面倒じゃない？」
「じゃない。言い出したの私だし、座ってていいよ」
雅紀にそう返しながら手元のチョコを刻む。
ざくざくとチョコが刻まれる音が互いの呼吸しかない部屋に大きく響く。
ひとつ、雅紀が欠伸をするからねむい？と聞けば、ねむくない、Aと一緒に起きてたいし、ととろけるような顔で言った。
やっぱりたぶんまだねむいんだろう。
顔も声も甘い温度が抜けきってない。
ということにしておかないとこっちが恥ずかしくて溶けそうだ。
小鍋を一つ取り出して牛乳を入れる。
この鍋は今後も使うことをこないだ雅紀と決めた。
新しいの買ってもいいよと雅紀は言っていたけれど、少しくらい自分が使っていたものも持ち込んでみたいという私の意見を採用してくれた。
私の部屋ではない場所で私の鍋を当たり前に使う。
ちょっと想像してみただけでもそれはほおを緩ませるのにじゅうぶんだった。
「なに笑ってんの？」
「ないしょ」
恥ずかしいからそういえば雅紀が「えー」と駄々っ子みたいな声を出す。
けれどその顔は笑っていて、たぶん私も今同じ顔をしてるんだろうなと思った。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年2月14日 18時
