chocolateのゆくえ《ars》 (ページ21)

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ウイスキーボンボンの消灯【O】ページ21

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風が吹くのを待っていた。

ひゅおおとビルの間でかすかな叫びをあげながら風が吹き抜けたのを前髪で感じて「ふぅ」と煙を吐き出す。

夜の闇と酷似した仄かな薄いグレーは成すすべなく風にさらわれて散っていく。

その様はどうにもできない人の無力さにも似ていて見ているとなぜか胸がすっきりする。

たぶん、それは風のせいでも煙のせいでもなく、ただ単に喫煙者における煙草の必要性に他ならないのだろうけれど。

若いのにそんなに煙草吸うのやめなよ、と彼はいつも言うけれど、私の手から煙草を取り上げたりはしない。

私から何も取り上げない代わりに私だけに与えることもしてくれない人だからこそと思えばなるほどそのはずである。

夜の闇に飽きもせず浮かび上がる働き者たちの都市はその輪郭を夜空に溶かすことも忘れてしまったに違いない。

こんな街に生まれるなんてとんだ不幸もあったものだ。

最後に見たスマホのディスプレイには二十三時四十分と表示されていたからまもなくセントバレンタインとやらも終わりを迎えるけれどこの煌々と点り続ける夜の住人たちはどれほどその一日を必要としただろうか。

「まぁた煙草吸ってんのか」

「……休憩中に何しても私の勝手です」

「違いねぇな」

扉の開くさび付いた音が聞こえていたからさして驚かなかった。

闇に溶けるようにして私の横にやってきた小柄な影は都市を縁取るか細い虫の明かりのようなそれにぼんやりと照らされて大野智その人の姿になった。

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