chocolateのゆくえ《ars》 (ページ17)

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初めて出会った日のAはまだ髪を伸ばしたがる年頃だった。

セーラーの制服がある女子校を選択したのはその制服が可愛いからだと言っていたが、そんなものを着なくたって少女は十分に可愛かったように思う。

初めましてと俺を見上げた少女の目は俺なんかよりずっと大きくて澄んでいた。

どんな奴でも仲良くなんてできるかと子供心に意地を張っていた俺はその目にとらわれて動けなくなった。

それからしばらく、俺と少女は兄妹になった。

「はいどうぞ。ハッピーバレンタイン、和にい」

「…ありがと」

一人用の丸いガトーショコラが乗せられたお皿はAの肌のように白い。

黒く光るガトーショコラの肌は焼け焦がれた俺の心にもよく似ているような気がした。

「今年こそ卒業できる」

「どうだかね」

フォークをぶすりと突き刺せばそのしっとりとした質感から濃厚なチョコの味が想像できる。

ぱくり、口に運ぶ俺をAが見ている。

決して広くもない椅子に両足を抱え込んで、膝にその小さな頭を押し付けて。

「どう？」

「……うまいよ。だからまた来年再チャレンジ」

「あー、今年もだめかぁ」

膝に顔をうずめるAが泣いた真似。

それに「んふふ」と笑いながらまた次の一口をフォークで抉り取った俺は悲しんだふりを続けるそいつにガトーショコラで覆い隠されたフォークの切っ先を向けた。

「ほら、A」

「あーん」

すんなり顔を上げて俺の差し出したガトーショコラにはむっとかみつくそいつには俺の矛盾した言葉の意味がどれほど理解できているだろうか。

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