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続いていく日々は何の変哲もなく朝が来ては夜が訪れ、この安らかな平穏のどこかで誰かは彼を想い、それでも時間は刻々と過ぎていく。
秋、冬、春ときて、日光がジリジリと照りつける夏がやってきた。
何故戻らない。毎日訪れる目覚めに、私は焦りを感じていた。時が一向に戻らない。
彼が転入してからもうすぐ一年が経とうとしている。こんなに長く時が進んだのは初めてだった。
シャンディラくんの今日の一時限目は魔法史だったはず。特別授業と称し、私は彼の元へ降り立った。真面目な様子で受講する彼は、変わらずペンをノートに走らせている。
トレイン先生の講義が終わるとすぐに私は彼を捕まえた。
「おはようございます、シャンディラくん」
「あ、学園長。おはようございます」
「最近の調子はどうですか? 何か困ってません?」
「あ〜……はい、いつも通りです」
彼は困ったような笑顔をする。心当たりはあるものの、改善への協力を求めはしないようだ。それで良いのかと心を痛める。貴方に添いたいけれど、それ以上の追及は出来なかった。
「もう、時は戻さないのですか」
ずっと聞きたかった事を私が訊ねると教科書を片付ける彼の手が止まった。一瞬の沈黙を経てから、シャンディラくんは憂鬱を隠さない声で、
「戻しても……何も変わらないなって」
「変わらない?」
「いえ、未来は変えられるんですけど……根本は何も変わってないと思うんです」
「というと?」
「結局、順番を回してるみたいじゃないですか。リドルを避けたらエースに、エースを避けたらアズールにって。誰かから逃げようとしても、最終的に誰かに捕まっているんです」
誰もいなくなった閑静な教室に、彼の消え入りそうな声が響く。怖いものですよ、と呟く声があまりにも平淡すぎてゾッとした。
教科書類の端を机の面で丁寧に揃えて鞄に仕舞ったシャンディラくんは、静かに立ち上がった。
「今日だって、嫌がらせかと思う程……ほら、これ。見てください」
座っていた席の机の中に手を突っ込み、ごっそりと何か紙類を大量に取り出した。
「手紙です。俺宛の。いつもこの席に座るので、誰か
が狙って入れたんだと……」
「封を切った事は?」
「無いです。……何が書いてあるのか、知りたくなくて。この席を使う他の生徒には申し訳ないですけど、手紙も最初の一回以降は触らずそのまま……」
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