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また、満天の星が夜空高く輝く星送りでの事。
ほぼ彼の家と化したビターショコレ寮は、不特定多数の寮生が出入りする七寮と違っていつも鍵は閉められている。扉に取り付けられた金属のドアノッカーを三回、念のためもう一度三回叩くと、少ししてからガチャリと解錠の音がした。
「失礼しますよ、シャンディラくん」
「学園長? どうしたんですか、寮までいらっしゃって」
「願い星を預かりに」
そう伝えると、彼は思い出したように頷いた。
「スターゲイザーたちには、貴方の分を私の元へ回収しに来るようにと伝えましたので。だって、嫌でしょう? 部屋まで人が訪ねに来るのは」
「ありがとうございます。助かります」
「訪ねに来る人」の中に私を含めない、なかなか傲慢な事を言った自覚はあった。でも、慢心ではないようで彼はまた私に感謝を告げた。
部屋から取ってきますと告げて奥に戻っていくその背中は、多くの生徒に見せる警戒など微塵も感じさせない。
数分してから、彼は玄関に戻ってきた。
光った星をお願いしますと私に預ける。
「何を願ったのかお聞きしても?」
「面白い事じゃないですよ」
そう言ってぼんやりと輝く星屑を眺めて冗談めかすように首を横に振る彼。
「ふむ……孤独を望んだのでしょうか」
重たくならないよう軽い語調で尋ねると、彼は吹っ切れたように笑った。
「俺でも一人は寂しいです」
「では何を?」
「ふふ、『友達が出来ますように』って」
淡く光る願い星。
パラドックス的な願いを灯し、後に空高く掲げられた。
友達。その言葉にどれだけの意味が込められているのだろう。
「星、綺麗ですね。無事に成功して良かった」
「そうですね。皆さんの願い、叶うと良いですね」
「はい。……そうだ学園長、学園長は何か願い事をしたんですか?」
人気が少ないが学園裏の空がよく見える校舎の廊下で、私の隣に立つシャンディラくんは向き直って尋ねた。
夜、星空を背景に私を見つめる麗しき瞳に、思わず触れてしまいたくなる。
「私? そういえば忘れていましたね……」
何か付いていますよ、と嘘の親切を言い訳に私は彼の髪へ手を伸ばす。触れれば触れるだけ、心が満たされると同時に足りないと思ってしまいカラカラと渇いていく。
欲深い私ですから、願いは尽きません。
『貴方から愛されますように』
『永遠にループが続きますように』
『貴方の願いが叶いませんように』
これだけでも、まだまだ足りないのです。
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