〜ドロ甘クロウチョコレート〜-10 ページ4
可愛い可愛い私の仔鴉。理不尽な世界を達観し憂いながらも未来へ視線を向ける健気な姿がなんとも愛らしい。
謎に満ちたループのズレが生じてから。
彼は宣言通り一言も発しなくなった。何を話しかけても尋ねられても、反応を示さずに徹底した無視を決め込んでいた。
これも全て、反吐が出るような重たい感情を避けるため。元凶を並外れた容姿や蠱惑の魔法のせいにして、黙って愛情を被るのはもう耐えられないらしい。彼は彼なりに工夫をし出した。
生徒の成長が見られて私は心を振るわせた。
偉いですね、シャンディラくんは。まあ、それが効果的かと聞かれれば、そうではないのですけれど。
「あの転入生さ、全く話さないよな」
「確かに声聞いたことないかも」
「俺この前話しかけたんだけどさ、目線だけこっち向いたと思ったら黙って行っちゃったんだよ」
すれ違う生徒たちが話す、シャンディラくんの噂。
そこにもう一人の生徒が加わり、
「それドローレくんの話だろ。あの子、失声症らしいぜ」
かなり広まってきた偽の噂を彼らに伝えた。
「マジ?だから耳は聞こえても話せないってわけ」
「多分な。証拠は無いけど。でも色んな奴が言ってるぜ。2-Cの奴らも言ってたし」
「クラスメイトが言うならそうなのかもな」
なかなかの広まりに、生徒たちは皆疑いも持たずにそれを信じてやまなかった。
「だから俺さ、将来ドローレくんの翻訳家目指そうと思って」
「馬鹿じゃん」
「それじゃ俺はドローレくんの声優目指すわ」
「お前らキモい」
「えっ、お前は違うの?」
「俺はドローレくんと心で繋がってるから」
「キッショ」
とまあ、こんな感じで。
無条件に宿る感情がまた彼を蝕む予兆がそこまで迫っていた。いつか遠くない内に、静謐な孤独を好む彼の安息を壊す者が出てくるだろう。
私は呆れの混じった溜め息を小さく吐いた。
次の授業へ向かう生徒たちで賑わう廊下に、冷たい風が突き抜ける。一人で歩くには少々寂しい心地がした。友人を作らないと決めたシャンディラくんも同じ感傷に浸る事もあるのだろうかと、遠い秋空を見上げた時、随分と早足に歩く靴音が聞こえてきた。その足音は徐々に早まり、やがて走行するくらいのリズムに変わる。
「コラ!廊下は走らな……」
叱責をしてやらねばと振り返ると、
「待てって言ってんじゃん!」
「…………ッ」
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