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「ああ、それもそうなんだけど」
俺の浮足立つような感情とは裏腹に、先輩は先程よりはるかに感情がドロリと溶け出した熱視を向けていた。
「俺らの前じゃ絶対見せないのに、ああいう顔するんだと思って。……ホント、何考えてんだろ。いくら飛行術好きだからって」
「え、シャンディラ先輩って飛行術が好きなんですか」
「ん？ そうだよ。スカイレースが大好きなんだって。この前話聞いたけど、細かすぎて全く分からない話されちゃってさ。何て言ったかな、ヴァネーロ・フォン・……スイーツ？ みたいな選手を推してるみたい」
よく知らないけど、そんな言葉で締められる。
スカイレース、その言葉に俺の肩はビクリと跳ねた。あまりにも意外だったし、なにより奇跡的だった。俺もよく白熱のライブ中継を見るし、同じ趣味を持つエペルとヴァネーロ選手の活躍に期待だなと話したばかりである。
きた、と俺は胸を高鳴らせた。天から降り下りてきたチャンスだった。
その朗報を聞いてから、俺はずっと派手な操縦をするシャンディラ先輩を目で追って期待を募らせていた。
早く話したい、話を聞きたい。
講義終了の予鈴が鳴って、俺は一目散に駆け出した。驚愕と哀れみが混ざったエースの蔑視を受けながら俺は一人でいる先輩の背中を追う。猪突猛進。考えなしの俺だから出来たことなんじゃなかろうか。
アプローチをしては終わりだ、との忠告も忘れて俺は先輩に声をかけた。
「シャンディラ先輩！」
「……？」
先輩は不思議そうな顔で振り返った。ここでエースやグリムなら、誰だお前と言わんばかりに顔を歪めるのだろうが、真っ直ぐな心根の先輩はただキョトンと首を傾げた。
ブルゾンを腕に掛けていた先輩は、先生の教育熱を全身に受けてからか少々暑そうに運動着の胸元を少し開けていた。覗く鎖骨に殺されそうだ。でも、そんな仕草を見せては不埒な輩と思われてしまうだろうから、俺は視線を逸らさぬようにぐっと堪える。
「あの、さっき先輩がスカイレースに興味を持っていると聞いて、一度話してみたくて……！」
そこまで言って思考が止まる。何て続けよう。うわ、ヤバい。
「えっと、……ぁ……」
俺は不自然に言葉を詰まらせる。先輩を真正面に据えると、思うように話せない。ただの写真を前にしてもああなのだから、本物と対面なんてハードルが高すぎたのだ。
頭が真っ白のなか、心臓がおかしい程に鳴っていた。
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