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「モヤシども! 集合だ!」
授業開始を知らせる鐘の音が響くと同時に、バルガス先生の声と元気な笛の音がグラウンドに轟く。
先生は俺らを召集しざっと目を通してから、
「今日はペアを組んで、箒の二人乗りに挑戦してもらう。原則、1年と2年が組むように」
先生が声を張って言った。
その命令にグラウンドが張り詰める。俺の視界の端にギリギリ入っていたシャンディラ先輩は、複数の視線を感じてか、大変居心地悪そうに身を縮めると共に、絶望的な命令に彼は小さく俯いた。
「あっ、ああ! シャンディラはオレと組もう」
思い出したように付け加える先生の慈悲に、彼の気負いは薄れていったようだ。肩の力が抜けていったように見えた。安堵に変わった先輩の表情とは打って変わって、俺ら1年は打ち砕かれた希望を見送る哀れな面構えをしていたと思う。
「さあ組め! 2分以内だぞ」
先生が号令を掛けるとシャンディラ先輩は真っ先に動き、先生の元へ歩み寄った。そして逞しい脚の下に山になった箒を手に取っては戻すのを繰り返す。見定めるように箒を眺める先輩は緊張と打って変わって、陳列されたチョコを選ぶような自然な表情をしていた。
「おいデュース? 先輩見てたって組めねぇって」
「はっ……あ、ああ、そうだな」
「もう、しっかりしてよ。……あっ、ジャミル先輩! 僕と組んで下さい!」
「ユウはしっかりっつーか、ちゃっかりしてんなぁ。絶対飛行術上手い人選んだよな。オレも誰か上手い人探して組みますか」
俺は結局、陸上部の先輩と組むことにした。
ディアソムニア寮生で2-C所属の人。つまりシャンディラ先輩とクラスメイトだ。稀に先輩たちが一緒にいるところ見かける。仲は良いほうなのだろう。
その陸上部の先輩は、高尚な精神を持つ寮生なだけあって上品で聡明で、俺には無いものを沢山持っている人だった。箒の操縦だって俺より上手い。
俺に足りないものは何か。その問題を反芻する。
そういえば、人間は自身より上だと感じた人に思いを寄せるらしい。要するに俺がシャンディラ先輩の眼中に入るには、彼より優れた何かがなければならないということだ。
そんなものあるのか?
風を切る感覚を受けながら没頭して考えていると、急に箒の動きが荒くなりガクンと下に落ちてピタリと止まった。もう少し気を抜いていたら振り落とされるところだった。
「先輩?大丈夫ですか」
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