『制裁』11-2 ページ15
足りないものは勇気か、知性か。はたまた自信か。彼のような並外れた容姿か。
エースの手の中の写真に視線を移す。
ああ、もはや反射のように心臓が握られる。そのまま見つめ続けたら俺はどうなるのだろうか。眩しすぎる太陽から逃れるように目を逸らす。
「目も見れないでどうするわけ?」
エースが茶化すように笑った。
お前奥手そうだもんな〜、とエースは写真を返して先輩を眺める。
「練習っつったって、一週間何も進歩してないけど? 意味あんの?」
エースは自分のベッドに体を放り投げて視線だけを僕に向けた。
「それは……じ、じゃあ僕はまず何をするべきなんだ?」
「んなの知るかよ。まあ、計画立てたり練習したりって考えは良いんじゃねえの?」
まあどうせ無駄なんだろうが。そんな声が語尾についた気がした。
「…………。」
ふと外を見ると、暮れの空は曇天に覆われて薄い橙色が微かに滲んでいた。
「少し、外に出てくる」
「練習は?」
「今日は終いだ。ありがとう、付き合ってくれて」
「黙って写真持ってるくらいならいつでもやるけどね」
その薄い笑顔が最近怖い。言葉の裏に何を抱えているんだ。
少しの間エースの顔を窺う。先輩の写真を俺に返してから、エースはすぐスマホを手に取った。その表情はもう無関心に書き換わる。
「デュース、何?」
「ああ、いや。何でもない」
「あ、そう」
俺はエースに背を向ける。
時々見える哀れみはもうそこにはない。気のない返事だ。
椅子の背もたれに掛けていたブレザーを着て部屋を後にする。行く宛は特にない。なんだか、外の風に当たりたい気分だった。
秋は終わりを告げようとしていた。肌を撫でる冷たい風。もう一枚着こんでくるべきだったかと、白いバラの香りの中、一人物思いに耽ながらフラフラと歩いた。気が付けば迷路のような垣根の道に突入していて、その奥の奥に塗り忘れと思われる赤いバラが寂しそうに震えていた。
仲間外れか? 俺はマジカルペンを手に握る。今白く塗ってやるからな。
最近覚えた色変えの魔法。純白を思い描き俺はペンを振ろうとしたが寸でのところでその手を止めた。
「…………。」
白の中に映える赤。吸い込まれそうな赤だ。いっそ王者のような出で立ちが、白い駒の上に立つ特別な存在のような気にさせる。
特別な存在。まるで。
俺は香りまで想起して、濃い茶色のチョコレートを思い描いてペンを振った。
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