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次の日。
「今度は、何が?」
また時は戻っていた。焦げ茶色のベースカラーに薄茶色のストライプがチョコレートを想起させる二人がけソファに座って目を伏せるシャンディラくんに私は問いかける。
「気を抜いてたのが悪いんですけど……。ちょっと街に用があって外を出歩いていたら、なんというか、捕まっちゃって」
自嘲気味に彼は話す。後ろから薬品を嗅がされて気を失ったところを閉じ込められたそうだ。犯人は、と尋ねると彼は曖昧に笑った。彼の心証を損ねたくない、との事で実名は伏せられた。「俺よりも俺の事を知っている人、がヒントです」だそうで。
「俺、人よりまばたきが多いらしいです。特に誰かと話している時」
最高にクレイジーな現実の話を淡々と話すシャンディラくんは、「俺でもそんな事知らないのに」と、甘さが香り立つホットチョコレートに口を付けて続けた。
「足には枷が嵌められてたんですけど、手が自由に使えて本当に助かりました。両手で握らないと、石は使えないので」
助かっただなんて。それ、私の科白でしょう。
貴方が他の誰かを振り切って私の懐へ戻ってきた。この夢のようなループが途切れずにまた回りだしたのだ。安心感が胸に広がる。
「……まさか、この年にもなって誘拐されるなんて」
「今後も気を付けて下さいね」
「誘拐にですか」
「幽囚にも、ですね」
「……そうですね。気を付けます」
手だけは死守しないと、と冗談めいた事を呟くシャンディラくんの声はホットチョコレートの海に沈んでいった。私もほろ苦いコーヒーに口を付ける。
私の物になれ、だなんて夢のまた夢は死んでも口に出さないつもりだから。せめて、この無限に続くループの中で私と永遠を彷徨ってほしい。
「これもまたカンキンなんですかね」
「え?」
「何でもありませんよ」
永い時の中で学園に縛り付けるこの無垢な庇護。そこに私の個人的な私欲が絡まれば、もうそれは立派な幽閉だと。貴方には決して伝えずに。
「今度こそ、上手くいくと良いですね」
心にもない慈愛を笑みに宿した。
next,スペード型チョコレート
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