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「……それって、俺が同じ事を言うのが2回目だという事ですよね」
「そうなりますね。一言一句、変わりませんでした」
何故と考えれば、直ぐに時戻しの石が思い当たった。何度かループを重ねて分かった事は、消したはずの時間軸での発言と、全く同じ事を言う場合があるということだ。俺もその状態になって、過去と全く同じ発言をしている事を踏まえると、
「……この石によって、俺の記憶が消えてしまったという事ですか?」
考え難かったが、それ以外の可能性思い付かなかった。
俺の考えに学園長は一つ唸って、
「そう、なんでしょうねぇ」
腑に落ちない、といった感じでおもむろに答えた。
「石のバグなんでしょうか」
俺は石を手の中で転がして問う。
寸分狂いない淡い光が俺の掌を照らした。
「その可能性は低いですが……そうですね……」
顎に手を当てた学園長は口を引き結んで一呼吸置き、俺に訊ねた。
「あの、この石に興味を持たれたり、触られたりした事はありました?」
「え?無いはずです……けど……」
神妙な問いかけに学園長の言わんとしている事を察した。
この時戻しの石は、使用者と創造者のみが遡った時の分の記憶を保持出来る事から推理出来る仮説は、
「もしかして俺以外の誰かが、この石で時を戻したということですか」
俺と学園長のループに他人が干渉したという説だった。誰か他の人が使ったならば、創造者である学園長の記憶が残り、使用者ではない俺の記憶が抜け落ちたのも説明がつくのだ。
掻き乱された心境を隠すように俺は真顔である事に努めた。不安も焦燥も嫌悪感も、全て押し殺して。
「……でしょうねぇ。少なくとも私はそのように考えました」
「ですよね……」
俺は俯く。誰がこの石を使ったのだろうと考えれば考える程、嫌な気分に侵食される。手がかりも無ければ記憶も無いのだ。追跡する宛もない。完全にお手上げ状態だった。
誰が、何のために、どうやって使ったのか。
真実を見つけられる気がしなかった。
「これ……誰が使ったかなんて分かりませんよね」
「そうですね、時間が遡っているわけですから、指紋などの痕跡も残っていないでしょう」
「…………。」
俺はふっと息を吐き、時戻しの石を定位置に仕舞った。諦めたのだ。誰が何のためになんて知っても意味がないと思って。
「やっぱり良いです、分からなくて。世の中知らない方が良いこともありますし」
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