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だが、俺の決意は甘かった。
大好きなスカイレース。上空での出来事。危機に瀕した状態での、あの脅迫染みた感情の吐露は本当に怖かったのだ。
レオナさんを選ぶか、死を選ぶか。風が耳元で鳴る薄い空気の中鮮明に思い出してしまった、オンボロ寮で迫られた二択のトラウマ。
浅はかな俺はあの時エースを選んだ。俺が彼奴を抱き締めた時に聞こえた感嘆の息や目の端に捉えた狂喜の表情が、警告音を鳴り響かせる脳裏を瞬時に過った。レオナさんを選んではいけないと思う理由としては充分だった。
俺は使わないよう奥に仕舞っていた石を、結局逃げ道として使ってしまったのだった。
まあ、過去という逃げ場が無かったら、本気で死を選んでいたのだろうが。いっそ地面に叩き付けられた方が幸せだったんじゃないかとも思えるあたり、もしかしたら俺も狂っているかもしれない。
「今回は、マジフト部の練習に参加させてもらった時の事でした」
無感情で淀みなく話す。無感情でないとやってられない。
対面に座っていた学園長も特定の感情を出すことはなく、ただ儀式のように黙って聞いていた。
「俺、スカイレースが好きなんですけど、それを話したらレースコースを作ってくれて。それでレースを始めると」
そこまで説明すると、学園長が手にしていたティーカップをカチャリと置いて、
「待ってください」
この報告の儀で、初めて俺の過去話を遮った。
「……？ 何でしょう」
「その話……」
些か言いにくそうに口を開く。
学園長は少し迷った挙げ句、俺に衝撃的な発言をした。
「その話、既に一度聞きましたよ？」
「え？」
俺は思わず、間髪入れずに聞き返していた。
「空中に飛び出して、時を戻したんでしょう？ その信じられない無茶、一度聞きました」
「で、でも、俺はついさっきまで箒の上にいて……」
学園長の落ち着きが不思議なほど、俺は狼狽えた。それもそうだ。だって、本当に2分くらい遡れば、俺は空に全身をあずけていたのだから。
冷たい風を切る感触も、臓腑が口から飛び出して外身だけ落ちるような、あの恐怖と不快感も。全部指先から爪先までまだ残っているのに。
「…………。」
あの叫びだしてしまいそうな迫りくる死が、まだ俺を離してくれないのに。
でも、学園長が嘘を吐いているはずがないと踏んで、俺はそれ以上の反論はしなかった。無性に喉が渇いて、俺は一口紅茶を飲む。もはや爽やかさなど残らぬ甘味が舌に残った。
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