今宵逢ふ人:4 ページ4
そこまで言い切ると彼はパッとわたしの手首を掴み、そのまま手の甲に口づけをした。
その視線はわたしの瞳をしっかりと捉えている。
《返事は聞かないです。今はね。でも、覚悟しといてください……じゃ、行ってきます!お世話になりました!》
「あ、ちょっと!」
片眉を意味ありげに持ち上げたかと思うと、呼び止める声に振り向かず、彼は出国者ブースへと飲み込まれていった。
ぽかんと一人取り残される私の周りだけが、時が進んでいるような感覚に襲われる。
え、今、わたし何言われて、何された?
ぐるぐると彼の言葉が頭をめぐる。
すると、ぽんと後ろから腰の辺りを叩かれた。
おそるおそる振り返るとそこにはてっちゃんの姿。
『……帰るよ』
彼にしては低い声。
わたしの返事を待たずしてぐいぐいと私の腕を引っ張る。
途中、あれ東海のてつやじゃない?!という声も聞こえてきた為、展望デッキに寄ることもせず、足早にセントレアを後にした。
その間てっちゃんはわたしを見る事はなかった。
ほぼ押し込まれるような形でi8の助手席に乗せられた。
会話が聞こえてた事はないだろけど、
彼の最後の行動は爆弾モノだった。
なんとなくキスされた方の手の甲は逆側の手で隠しててっちゃんに見せないようにする。
高速道路からの眺めを見ているフリをして視線は窓に向きっぱなしにした。
手の甲は熱を持っているようだった。
セントレア大橋を越え、伊勢湾岸道に入ったところでようやくてっちゃんが、長い沈黙を破って、タバコ吸っていい?と声を出した。
普段なら断るけど、どう考えてもそんな雰囲気じゃない。どうぞ……と手で促した。
料金所の通過待ちのタイミングで素早く火を点けて、普段よりは深く吸うてっちゃんをわたしは横目で見るしかなかった。
とはいえ、このあとずっと黙ったままでいるのも無理な訳で。
わたしは自らこの空気を打破する事を試みる。
「……もうこのまま帰る?どこか寄ってく?」
『………なんも考えてなかった。行きたいとこあるん?』
「…いや。ない、かな。やっぱ帰ろうか。お腹空いた?家着いてからでいい?ご飯」
『うん。今別に腹減っとらん』
「そう…じゃ、家で作るね…」
また沈黙が生まれる。
てっちゃんはずっと前を向いたまま此方を見ない(高速を運転してるんだから当然だけと)。
はぁ。
これはだいぶ怒ってるかなぁ…。
仕方ない、なんか夕飯は好きなモノ作ってご機嫌取るか…。
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Hina(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» Mrs.ぱんぷきんさま コメントありがとうございます!キュンキュンして頂いてありがとうございます!また読みに来てくださると嬉しいです。 (2020年7月4日 22時) (レス) id: 4d7f12fd70 (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 朝からキュンキュンしちゃいました照 (2020年7月1日 5時) (レス) id: 534e341e06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Hina | 作成日時:2020年6月30日 22時