Vanilla-1 ページ9
〈Vanilla〉
夕飯の支度にはまだ早い時間。
わたしはキッチンに立っていた。
「え〜っと、卵黄っと……」
ボウルの中に予めきちんと計量した材料を指示の順番通りに入れて混ぜ合わせていく。
カチャ。
廊下との境のドアが開いて、朝からついてる寝癖を未だぴょこぴょこさせたてっちゃんが入ってきた。
集中してる時の彼は目があっても反応してこないが一応顔を上げて微笑んでおく。
今日のてっちゃんは編集日。
頭をボリボリ掻きむしりながらわたしの後ろを無言で通り抜ける。
食器棚から小さめのグラスを取り出して冷蔵庫の中のアイスコーヒーを注いだかと思えば、その場で一気に飲み干した。
ぷはーっと一息吐いたら、そのグラスをシンクでさっとひと洗いし、乾燥カゴに立てかける。
日中使った食器類はその都度洗って、と教育し続けた成果が見られてちょっと嬉しいが特に何も言わない。
てっちゃんがわたしの手元をチラリと覗く気配を感じる。
でも、そのまま特に何を言うでもなく、ドアの奥へと消えて行った。
「……よし、これでまた混ぜる、と」
薄力粉をボウルに追加し、更に混ぜ合わせていく。
カチャ。
てっちゃんがまた入ってきた。
今度はMacBookを片手に。
「どうしたの？」
『んー…』
視線はMacBookの画面から逸らさず、ペタペタと足音を鳴らしてリビングのソファに腰掛け、そのまま編集作業を始めた。
混ぜ合わせた材料がいい感じにまとまってきたので、更にボウルの中で手で捏ねていく。
しっかり丸まった状態のそれを取り出したら、伸ばし棒で丁寧に長方形に伸ばしていく。
『ねぇ、何やっとるの』
「うわ、びっくりした」
さっきまでソファにいたはずのてっちゃんがキッキンカウンターを挟んで正面に立っている。
あ、わたしの作業が気になって自分の部屋からリビングに移動してきたのか。手元を覗き込んでくる視線が好奇心に溢れている。
『いい匂いがした』
「バニラエッセンスの香りだね」
『なん作っとるん』
「クッキーだよ。ここから型抜きして、あとは焼くだけ」
今日のおやつはコレにするの、と既に用意しているクッキー型を顎で指し示した。ヘーゼルの瞳がそれらに視線を移す。
「俺もやりたい」
『えぇ〜？なに、急に』
「なんか、楽しそう」
『編集は？』
「……まだ時間あるからへーき！！」
確かに今日のてっちゃんは珍しく朝から編集している。
気分転換したいのかもしれない。
『…じゃあ一緒にやろっか？』
「おっしゃぁ！まかせろ〜〜」
『じゃ、まず手を洗ってくださーい』
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Hina(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» Mrs.ぱんぷきんさま いつもコメントありがとうございます。寝ぐせお気に召したみたいで良かったです！引き続きお楽しみ頂けると嬉しいです！ (2020年6月21日 12時) (
レス) id: 97a2dfde2e (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 独占欲……寝ぐせぴょこぴょこ………好きすぎます泣 毎回素敵な橙さんをありがとうございます！！！！！ (2020年6月20日 23時) (レス) id: 534e341e06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Hina | 作成日時：2020年6月20日 22時
