８８ 〜S〜 ページ8
昨日、慌てて帰った事…
俺を避けた事…
………泣いてる理由。
全て元凶は同じじゃないかって…。
頑なに口を閉ざすAにどうやって吐かせるか…。
付き合いがまだまだ浅い俺には皆目見当がつかない。
悔しいけどクソ兄貴ならこんな時、上手く扱う術を知っているだろう。
俺だっていずれは、一番のAの理解者になってやるさ。
とは言っても今はどうすべきか…
視線をずらしてため息をつくと、怯えたようにビクリと身体を震わせる。
「唇噛むな。血が出る。」
左をAの手首から離して、顎を摘み親指で下に引いた。
だけど直ぐに元に戻す強情なA。
「A。この唇を噛んでいいのは俺だけなはずだけど？」
人差し指で唇をトントンとすると、堪えてた涙をブワッと溢れさせる。
「ん？そんなに泣くほど俺は嫌な事した？」
熱に侵されて、幼気なAに無理矢理…？
でも形跡は全くなかったぞ？
首を左右に振るAの頬に伝った涙をチュッと吸ってやる。
「うぅ〜。」
子供みたいに声を出して泣くから、引っ張り起こして抱きしめて頭を撫でてやる。
「マジで…どうした？俺、笑ってるお前に会いたくて来たのに…。」
Aの笑顔は例えるならやっぱりカサブランカ。
高貴で無垢…
だけどどこか可愛いらしくて…。
「A？」
名前を呼んでも、返ってくるのは泣き声と嗚咽だけで…
正直、もうお手上げ状態。
泣き続けるAを抱きしめて宥めるだけしかできない情けない俺。
ドアが遠慮がちにノックされ、この部屋の主がこんな状態だから俺が代わりに返事するとドアが開き…
ベッド上の俺達を見て潤が目を見開く。
頭の回転が早い潤が、色々と察し買った荷物をソファとテーブルに置く。
潤に目配せをすると、よくできた付き人は俺の元に俺が欲しい物を持って来る。
Aは俺の肩に額をつけたまま泣いてるから気づいていないだろう。
潤が一輪のカサブランカを俺に手渡し一礼をすると静かに部屋を出て行った。
「A。」
トントンと背中を叩き身体を離す。
俺を上目に見る潤んだ目が可愛いくて、目尻にチュッとキスを落とした。
「ほら…これ。」
手に持っていたカサブランカを差し出すと目を丸くした。
「花一輪で解決できるなんて思ってねぇけど……頼むよ…笑って？」
もうどうしょもなくて、Aの目を見て懇願する俺はお前から見てどんなに情けない男なんだろうな…。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2018年4月17日 19時
