８６ 〜S〜 ページ6
俺が執事と入れ替わりで部屋に入ると、背後でパタリとドアが閉まった。
部屋のど真ん中にある姫仕様のベッドの傍らに執事が座っていたのであろう丸椅子があって、そこに腰を下ろした。
額に冷却シートが貼られているAは鼻の下まで布団が掛けられていて、これじゃ苦しくねぇかと口下まで下ろしてやる。
そうすると頬がいつもよりも赤くて、それは熱が高い事を物語っていて…
そっとそこに指の背で触れみる。
「あちぃな…。」
よく見ると首にも汗が滲んでいて呼吸も荒くて…
可哀想だなと思うのと同時に、最中のAはこんななのか？と不埒な妄想が暴走しそうで急いで意識を正常モードに戻す。
執事と代わって付き添うはいいけど、看病されてもした事がない俺は何をしたらいいかわからず…
手持ち無沙汰な俺はAの枕元にいたテディベアを意味もなく抱き上げ膝の上に置いたり…。
クマの腕でAの頬をスリスリって撫でてみると、くすぐったいのか目がギュ〜ッと瞑られて身じろぎして手でクマを振り払おうとする。
「ふっ…可愛いな…。」
思わずその頬にチュッとキスを落とし、覆い被さり反対側の頬にもキスを落とした。
そうすると今度はにこーって笑うから…
もう…ね？
「ヤベェ…可愛いなんてもんじゃねぇ。」
ペリッと額の冷却シートも剥がし、前髪を掻き分けそこにキスを落とし、瞼、眉間、鼻…
そして最後に唇…。
唇をくっつけたまま病人に盛るなんて俺ってどんだけ我慢が効かない鬼畜なんだ？って『ふふ』っと自嘲的な笑いが込み上げて。
ここまでしたらさすがに起きたのか薄っすら目が開いたAと超至近距離で目が合って…
パチパチと瞬きを繰り返し…
状況がわかるとパチリと目を見開いた。
「おはよ。キスでお目覚めな気分はいかがですか？」
「え？なんで…？」
戸惑うAの頬をそっと撫でてやる。
「白雪姫の気分になれた？」
「え？え？翔…さん？」
「そ。姫が寝込んだと聞きき駆けつけて参りました。」
「え？翔さんは大丈夫なんですか？」
白雪姫ごっこを楽しもうとしてるのに、ことごとくスルーされてる悲しい翔さんですよ…。
スルーされるならもう通常モードに戻そ…虚しいだけだし…。
「あぁ。うさぎりんご美味かった。」
「あ…はい。」
そう短く返事をすると、一瞬悲しそうな顔をして布団を被った。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2018年4月17日 19時
