１１２ 〜S〜 ページ32
Aの真っ直ぐな目と、何かを吹っ切ったような凛とした態度に別れを告げられるんじゃないかと怖くなって…。
どんな目でAを見ていいのかわからず、呼ばれた声に導かれるようにして隣に座るAを見た。
お互いがお互いの視界に映り込むと、なぜかAは泣きそうに目を細めて、そんなAの目に映る俺も情けない表情だった。
「…翔さん？」
絞り出されたようなか細い声は震えていて、
「あ、あの…。」
Aも何かを告げる事に恐怖を感じてるのか、先程までとは違い身体も小さく震えていて。
あぁ…
なんかもう…
愛おしくてたまらない。
不自然に開いた二人の距離を、Aを抱き寄せる事でゼロにして、背中に回した腕にギュッと力を込めた。
「先に言っとく。俺はお前に何を言われようとも別れる気はねぇからな。」
「…翔さん…私ね…？」
「あぁ…。」
「ずっとずっとあの空間が窮屈だって…逃げ出して自由になりたいって思ってた。」
「あぁ。」
「だけど、そこから出たら私には何も残らないって気づいて…。」
「そんな事はない。」
AはAでいるだけで価値があるんだ。
誰よりも…
あの兄貴よりも俺はその価値をわかってる。
「ううん。実際、私は何も知らない。知らない…知れないのは全部和くんが私を閉じ込めるから悪いんだって…。」
「まぁ…それは一理ある。」
「だけど、そんな和くんに甘えてたのはやっぱり私の方で…みんなに甘えてただけだったの…サイテーなの私…。」
声が震えて、段々と涙声に変わっていく…。
「それはそれであの兄貴は満足してたんだからいいんじゃねぇか？」
そんな難しく考える必要はない。
兄貴はAを甘やかす事が生きがいで、甘えられりゃ本望だろう。
「で？それと俺との事に何の関係があるんだ？」
「うん…不安だったの…そんな私に次期家元のお嫁さんが務まるのかって…。」
「だから、それは『でもね？』」
俺の言葉を遮って、軽く胸を押して俺と少しだけ距離を取った。
「私は翔さんが好きです。」
涙がいっぱいの潤んだ目のまま、真っ直ぐに俺を見てはっきりした口調でそう言った。
「…まだ言った事なかったなって…。」
ちょっと照れたようにはにかんで、恥ずかしそうな表情を隠すように俯いた。
「…んだよ…もぉ…もぉ！」
掻っ攫うように抱きしめて、
「翔さん…苦しいよぉ…。」
「うるせぇ！」
嬉しくて泣きそうな目を隠した。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2018年4月17日 19時
