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思えば私が泣けばこうやって甘やかしてくれる手はたくさん周りにあって…
いつの間にか、それが当たり前になってて…
最初から私はそれがわかってて、こっちがダメならこっちっていう逃げ場を確保したズルい事ばかりを繰り返してた。
翔さんの為にってしてきた事も結局は自分を守る為にしてきた事で。
翔さんはずっと私は私のままでいいって言ってくれたのに、またあの時のように見ず知らずの人にバカにされて蔑むような事を言われたって怖くてたまらなかった。
甘やかしてくれる手がたくさんあった私は自分の好きな人も信じられないくらい弱いままで…
翔さんの隣に立つ為に本当に必要な事は、マナーの知識ではなく翔さんを思う自身と、翔さんに思われてる自信を持って凛と立つ事。
そして私が甘えていいのは手は翔さんの手だけだとう事。
翔さんのお嫁さんになるなら本気で兄離れ、執事離れをしなければならないんだ。
「山岸さん？」
「はい。」
「相葉呼んで？」
「かしこまりました。」
山岸さんが相葉を呼ぶとすっ飛んできて。
涙が残る目の私を見て驚いたけど、私が用件を伝えると『手筈を整えます』と部屋を出て行き…
翔さんの部屋の鍵を私に握らせ、セキュリティは万全だからと玄関先に私を残して立ち去る。
おそらく松本さんと連絡を取っていて、だいたいの時間も見計らってたんだろうけど。
相葉も、それから松本さんもそういう人だ。
偉そうな事を言ったって、私も翔さんもたくさんの人に助けられて守られている。
私を確認した翔さんは半ば信じられないといった表情のまま部屋に入るのを促し、私をリビングに通した。
「適当に座っとけ。」
「はい…。」
不機嫌そうで乱暴な言い方だけど、ソファに座った私を見る目は泣き出しそうに歪んでて…
その顔を誤魔化すようにキッチンに向かい、冷蔵庫を開けて、
「…何もねぇや…。」
ポツリと呟く。
「いいです、翔さん？お構いなく…。」
お茶をしに来たわけじゃないし…。
こちらに戻って来る翔さんの表情は俯いててよくわからないし、ソファではいつもくっついて座るのに、人ひとり分の距離を開けて座った事で途轍もない不安が襲うけど…
「翔さん？」
時計の秒針の音と冷蔵庫の音くらいしか聞こえないシーンと静まり返る部屋に、やけに自分の声が響いて…
ゆっくりとこちらを向いた翔さん目からは何の感情も読み取れなかった。
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作者名：しおなな
| 作成日時：2018年4月17日 19時
